第5話 ヤバい美少女が4人、来るぞセイハ!
「……久しぶり、セイハ」
「げっ」
いつものように特徴のないアパートに、しかしいつも通りでない人数で帰宅したところ、そこには俺が会いたくないヤツランキングのトップ10常連の姿があった。ちなみに早乙女も想いを伝えられる前まではランクインしていた。
ではなぜそこから外れたのか? なんとも単純な話だが、男ってものは美少女美女が性格悪くても自分への対応がまともならコロッといってしまうのだ。早乙女も黙ってれば紛れもなく美少女なんだよなぁ……。
などと必死に現実から目を背けても事実は変わらない。変わらずそこには彼女がいた。小柄な体躯に幼さの残る可愛らしい容姿。天真爛漫、そんな雰囲気のある少女。実態はさておくとして。
いかにも年下っぽい雰囲気だが、実際は俺の1つ年上なんだけどな。
「は? 誰その女? セイハの知り合い? ……それともオンナ?」
「これだから胸にだけ栄養を吸われた不良は。彼女は獅子院
やはりというかなんというか、哀理は相変わらず噛みつく速度が尋常ではない。ブルーギルかよ。そしてオンナかと問う時の目から光が消えている。おいおいおい。俺、将来刺されかねない気がしてきたぞ。28ヶ所の刺し傷だぞ! されたくないんだが?
「ちっ、うっせーな。……いや、ならなんでそんなのがセイハの家に来てんのよ。意味不明なんだけど?」
「…………誰? というか、いつからいたの? まあ、いいや。雑魚に用はない。用があるのはセイハだけ」
獅子院望は一瞬キョトンとした表情をし、哀理と早乙女に視線を向ける。そして興味をなくしたのか再び俺に向き直り、俺にだけ目を向ける。
「あ゛? 喧嘩売ってんの?」
「……私が雑魚に喧嘩を売ることはない。だから売ってない」
獅子院望は一瞥すらしない。傍から見ると、まるで俺とだけ会話しているように感じるだろう。彼女の人間関係には0か100しかない。
「よし、殺す」
「待て、哀理」
ぶん殴りに行こうとする哀理の肩を掴んでその暴挙を制止する。そもそも相手は星座級にして次期後継の最有力。手を出したら拗れるどころの騒ぎではない。それに……。
「なんで止めんのよ? まさかセイハはあの偉そうな奴の肩を持つの? あり得なくない」
「あぁ、あり得ない。それにそいつには絶対に勝てない。だから止めるんだ」
「そうですよ。ちなみに私も無理です。だから私より弱い貴方はもっと無理。これでお分かりいただけましたか?」
「……なら聞こうじゃん、あたしが勝てない理由をさ」
「それは————」
「……聞くまでもない。私の強さが分からない時点で雑魚。いやカス。生きてて恥ずかしくないの? 二酸化炭素ばっかり出して地球の環境に申し訳ないと思わない? だからさっさと家に帰って。これから私はセイハとトレーニングをするから。ほら早く」
「あ゛?」
俺が答えるよりも先、電光石火のスピードで獅子院望は捲し立てる。
うん、これはキレても仕方ないな。まさしく傍若無人、これまでどれくらいの人をこの無自覚の煽りで「どいつもこいつもこの私を苛立たせる!」させてきたのか……想像もつかないな。
面倒だし早く帰ってもらおう。
「いやしないが?」
「……どうして?」
そんな、今明かされる衝撃の真実! みたいなショッキングな告白をされたような顔しないでくれるか? 別に予想外でもないはずなんだが……。
「したくないからだ。というか、俺に勝ち目とかないだろ」
「……私の望みは強者との戦い。でも私の望む戦いのできる人はいない。納得のいく強者をいくら探しても、見つからない————」
「うわ……もしかして厨二病? 怖っ」
いきなり語り出した獅子院望。この語り何度目だろう、俺は心を無にした。
しかしこれが初めての人もいる、哀理だ。彼女は始まった長い語りにドン引きして数歩後退る……どころか俺の両肩を掴みつつ背後へと隠れる。ちなみに早乙女も体験済みだ。そして反応も今の哀理と同じ。仲良しかな?
こういう感性はまともなんだよな、この子たちは。
「……いえ、彼女は本当に強いのですよ。知りませんか? 『ダイヤモンドの惨劇』」
「聞いたことくらいならあるけど……なんだっけ?」
「所詮栄養がどこかへ流れてる貴方では無理ですね。彼女は去年の御三家星誕祭の3種目で圧倒的大差で首位を取り、我が校の総合優勝に貢献しました。しかし、その競技中は荒れに荒れましてね。彼女のその強さのあまりに対戦者の棄権が続出し、ある競技では、一度しか出場せずにそれ以降の対戦が全て不戦勝に終わったことがありました」
「……え? ヤバくね?」
「あぁ、とてもヤバい」
御三家星誕祭は各学園の威信をかけた一大行事。当然どの学園も勝ちにいく。熾烈な予選争いを勝ち抜いた6つの学園が、本戦にして当日である栄誉ある御三家星誕祭に参加できるのだ。規模も熱量も背景も金もメンツも単なる学園対抗の大会で収まるものではない。
そしてそれゆえにどの競技もワンマンでどうにかなるものではない……ないんだけどなぁ。
それはそれとしていちいち毒づかなくてもよくないか? 早乙女さんよ。
「じゃあなんでそんなのがセイハに絡んでくるわけ?」
「そんなの俺が知りたいくらいだよ」
獅子院望、彼女はいわゆる天才と呼ばれる人種だ。
なんでも卒なく熟し、なんでもすぐに上達する。ただ、凡人のことを理解しようとしない節があり、基本他人を名前で呼ばないし、呼んでも雑魚あるいはカスとしか呼ばない。あとそもそも人の名前も顔も覚えない。
そして他人のプライドをボコボコにすることに定評がある。弱者に人権なし! そういう思想なのだろう。そう言う意味で性格クソと言わざるを得ない。接するほどに不愉快になる。そういう人間だ。
そんな彼女はなぜか俺に結構な頻度で付き纏ってくる。そして慕っている。しかしトレーニングと称してボコボコにされたことは数知れず。デートと称して武者修行に付き合わされたことも数知れず。……そのお陰で身体能力、特に回避力は身についたが感謝するかとなると別の話。
(まさかとは思うが精神支配のことバレてないよな?)
「今さらなんだが、俺の超能力知ってるだろ? 当たり前だが勝てっこないし、第一、俺はそういう殴り合いとか嫌いなんだが?」
「————だから私はセイハと……ん? 嫌い?」
「あぁ」
語り、まだ続いてたのかよ。
「……そっか、戦い、嫌いなんだ。意外。でも、私は一目見ればその人がどれくらい強いか大体分かる。けれど、分からなかったのは今までで貴方1人。多分、これからもずっと。なんで分からなかったのも分からない。だから気になる。だから一緒にトレーニングをする。いつか分かるその日まで」
(相変わらず話が通じん奴だなぁ……)
『えっ? これヤバくね?』
哀理と(ついでに早乙女も)はいつでもテレパシーで会話をできるようにしている。だからこそ彼女の方から能動的に、頭に声が届いたのだ。
『大丈夫だ。言ってないしそんな素振りも見せてない。それに分からないって言ってる。なら問題ない……はず。だから哀理は挙動不審にならないよう……いや、なってもあいつは気にも留めないだろうな』
『それはそれでムカつくんだけど?』
『むしろ好都合と取るべきでしょう。というか、彼女に目をつけられたらセイハのように地の果てまで追いかけてきますよ?』
『……それはそれで嫌だわ、今のままの方がマシ。……いや、見下されるのは腹立つけど』
「言っておくがトレーニングはしないからな。あとどうせ勝手に抜け出してるんだろ? 速く帰らないと家の奴らがうるさいぞ」
「……雑魚にもカスにも興味はない。今は強くなることとセイハくらいにしか興味がない。だからトレーニングしよう?」
「しないが? そもそも、ここらでお前の言うトレーニングなんてやったら秒で警察がすっ飛んでくるぞ」
「……雑魚がいくら群れても無意味。だから関係ない」
「法律! 法律を守るのもお忘れなく!」
いや、なんで俺がこいつのお守りなんてしてるんだろう? しかも精神支配なんてインチキ超能力を利用してる俺がなんで遵法精神を説いているんだろう?
こいつと話してるとこっちのペースが乱れるどころではない。うっかり精神支配が暴発しかねない、こうなれば素数を数えて落ち着くんだ! 1、2、3、4、5————。
「望様! どうしてこんな場所に!」
「————6、7……ん?」
いい感じに素数を数えて落ち着いてきた頃、いかにも護衛な感じの男女数人が近づいてきた。見覚えのある人もいる。やはり獅子院望のお守り担当チームか。獅子院家で最も激務という……ご愁傷様です。同情はしないけどな。恨むなら教育方針を間違えた本家の奴に言ってくれ。
「……あっ。もうそろそろ刑事ドラマの、『I BORN』のシーズン10の再放送の時間。今日は帰る。また会おう、セイハ」
そういうとお守り担当チームなんて眼中にないとばかりに背を向けて去っていった。
I BORN……。確か、頭脳明晰な刑事とその相棒が難事件や隠蔽される真実、権力に立ち向かうドラマだったっけ? 俺は興味ないが結構な長寿番組らしい。獅子院望に付き合わされて何度か見たな。
だが、俺のように精神支配なんて超能力があると推理とか茶番にしか見えない。実感が湧かないんでどうも関心が持てないのだ。
精神支配の弊害だな、これは。
……にしても、どーして性格が終わってる美少女としか会えないんだ俺は。もっと普通の美少女に会いたいんだが!?
===あとがき===
個人的に一番関わり合いになりたくないのが央瀬哀理。不良は怖いっす
一番気に入ってるのが早乙女
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