第4話 ヒロイン(性格クソ)渋滞警報発令中
しばらくして足腰が立つようになった早乙女とともに外に出てみれば、学園の門に寄りかかっては注目を浴びる女子生徒が1人。
(なんていうか、すごい絵になる立ち姿だなぁ……)
他者視点で見ると本当に哀理は美少女だ。スマホをいじって時間を潰しているらしいが、そんな姿ですらドラマのワンシーンのよう。
どうやら彼女は俺を待っていたらしい。なんとも健気というか……まあ、美少女に出迎えられるのは悪い気はしない。それに哀理の、「困ったヤツだな」という表情の中のちょっと照れた様子が隠せない、その表情がグッド。
そんな彼女に出迎えられ、俺たち3人は帰路につくことに。
俺が早乙女と一緒に来たこと、ここにいることに思うところがあるのか不機嫌な様子の哀理。それを察し、少し歩いたところで先程までに起こったことを説明しておく。黙っているとあとでほぼ確実に拗れるので洗いざらい話した。
「えっ? なんでこの貧パイダサメガネに強力することになってんの?」
「開口一番に貧パイとは……相変わらず失礼な人ですね……」
「協力することになったわけは……まあ、成り行きだな。あの早乙女妹を見ただろ? 見てろ、ああいう手合いはこっちがなにもしなくても、仮に誤解であっても絶対絡んでくるもんだ。だから先手を打つ」
「はぁ……。セイハってさ、目を離すとすぐに変な女に絡まれるよね。ってか、そもそも生徒会がなにすんのか知ってるわけ?」
その変な女筆頭はお前なんだが?
「……全く知らない。だが週末までにメンバー集めないと早乙女は会長をクビになる、それだけは分かる」
「週末までに、ねぇ……一応聞くけど今日が何曜日かは知ってるよね?」
「……水曜日だな」
「はい、じゃあここで問題。週末まで今日除いてあと何日でしょうか?」
「……4日だな」
「正解。じゃあ最低何人いるかは?」
「……5人だな」
無理では!?
哀理の問いでちょっと冷静になったが、無理筋が凄い。彼女は頭を抱えており、「あちゃー」みたいな反応だ。
くそぅ、厳しいな。最近クラスメイトとの距離感がマシになってきたとはいえ、俺が「生徒会どうよ?」とか言っても受けてもらえる気がしない。
そもそも、早乙女
やはり地道、地道は全てを解決してくれると信じている。……いや、精神支配を使えば一発なんだよ? でも頼り過ぎるとあとが怖いんだよなぁ……犯罪って回数繰り返すほど露見のリスクが上がるし……。
「ならあと2人ね。それならまあなんとかなるっしょ」
「……ん? もしかして哀理も手伝ってくれるのか?」
やれやれ、みたいな反応の哀理はニヤリと微笑みながら俺の頭をこづく。やだ、なんて男前。好きになっちゃう。もうなってるけど。
「……ありがとうございます、央瀬さん。まさか協力してくれるとは思っていませんでした」
「別に、あんたのためじゃない。セイハのためだし。それにあの早乙女妹にムカついてるのはあたしも同じ」
ふんっ、と哀理は早乙女からそっぽを向いて言い放つ。照れ隠しっぽいセリフだが、実際は本音なのだろう。
「……ところでなんで俺たち同じ方向に……いや、俺んちの方向に向かってるんだよ?」
「ん? セイハの家に寄るのはいつも通りじゃね?」
「まあ、確かに」
「わ、私は想いを伝えました。だからその……一緒にいたいのです(ごにょごにょ)」
「は? 貧パイちゃん、セイハのこと嫌いなんでしょ? だから酷いことしてたんじゃん? それにあたしに、セイハのこと好き? って聞かれた時否定してたじゃん」
「あ、あれは照れ隠しといいますかなんといいますか……」
(えぇ……? どういうことよ……)
哀理は自身が初めて見るであろう、顔を真っ赤にしている早乙女に胡乱げな眼差しを向けている。その気持ちは分かる。
(ん?)
そんな帰り道の最中のこと、ふと前方のコンビニへと視線を向けると、そこには女子の集団が屯していた。
その集まりの中心に一際目立つショートヘアの美少女がいた、それも胸部のボリュームがとんでもない美少女が。そのサイズは、俺の手にまるで収まる気がしない哀理の胸の大きさを遠目ですら超えていることが分かるほど。
そしてスカートではなくスラックス。細身だが筋肉質だとなんとなく分かる、いかにも王子様然とした風貌。イケメン系女子とでも言えばいいのだろうか?
そんな彼女はこちらに気づくや否や、俺たちの方へと歩き出す。そして哀理の前まで来るといかにも王子様って感じの笑みを浮かべ、ごく自然に声をかけたきた。
「ちょっといいかな?」
「あ? 誰よ?」
「ボクは牡牛眞琴。君の名前を聞かせてもらってもいいかい?」
「あ゛? なんの用よ?」
さすがは哀理。ガンを飛ばしつつ恫喝するような(している)声色で全方位に喧嘩を売るいつものスタイルだ。
こいつ、これでよく友達できるよな……クラス内外に結構な人数友達いてビックリしたのが懐かしい。
「君と話がしたくなってしまってね、ダメかい?」
「見ての通り、あたしら忙しいわけよ。どっか行ってくんない?」
ぐいっと哀理は俺を引っ張り、身を寄せさせて腕を組ませてくる。加えてその巨峰を「むにゅう♡」と俺の腕に押しつけつつ恋人繋ぎもする。恐ろしく速い腕組み恋人繋ぎ、俺でも見逃しちゃうね。というかめちゃ柔らかい、腕が幸せ。
それを見せつけられた牡牛眞琴は表情を変えるかと思えば、柔和な笑みをまるで崩さない。
だが、俺はほんの一瞬だが見てしまった。路傍の石でも偶然視界に入ってしまった、みたいな無意味な物に向けるおよそ人に向けるものではない視線を。それを俺に向ける牡牛眞琴を。
対する早乙女や哀理への視線は……なんというか粘ついている。表面上は友好的なんだが、裏にドス黒いなにかを感じるのだ。俺は精神支配を使わずに生活できるよう日々トレーニングしているだけあって、人の機微には敏感なのだよ。
「ふぅん。なら空いてる日を教えてくれないかい? ボクは君のためならいつでも予定を空けられるからさ」
「なら、あたしはいつでも空いてないし。……というか、乳繰り合いたいなら取り巻きの女たちとヤればいいっしょ。わざわざあたしである必要とかなくない?」
うわっ、
……ってか今日取り巻き連れてる奴によく会う————絡まれる日なのか?
「ふふっ、ボクと彼女たちはそんな浅い関係じゃないよ? 心で通じ合ってるのさ。だからそういう行為は重要視してないんだ」
牡牛眞琴の粘ついた裏の視線にやっぱり哀理は気づくらしい。早乙女も懐疑的な眼差しだ。そしてこいつ、同性専門だな。俺の勘がそう言ってる。
あとそのエベレストで王子様は無理でしょ。
「めんど。行こうぜ、セイハ。あとついでに貧パイ」
「だ、誰が貧しいですって!?」
「また話をしよう。ボクはいつでもいいからね」
通り過ぎていく俺たち(主に哀理)へと牡牛眞琴は笑顔を絶やさずに手を振る。対して哀理は「うげ……キモ……」とドン引きしており、早乙女は俺と手を繋ごうと手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返していた。
ふと気になって取り巻きの女子生徒たちを見てみると、彼女らは牡牛眞琴にうっとりとした視線を送っている。どうせ、「紳士的で素敵」とか「きゃー、抱いて♡」とか考えてるんだろうな。
だってメスの顔してるし。
そして俺が振り返った際に牡牛眞琴が向けてきた視線は、ふと暗闇でなにか踏んづけたと思ったら確認したらGだった、みたいな嫌悪感を含んだものだ。
(あー、もう次から次へと……)
あの目、絶対また絡みに来る。哀理と早乙女を狙って、そして俺を敵と見定めて。しかも「牡牛」って精神干渉系の星座級やん。厄介事の香りしかしないぞ。
「「「はぁ……♡ はぁ……♡」」」
その夜、牡牛眞琴はいつものように呼び出した少女数人を、家族には内緒で借りている
マンションの一室でたっぷりと隅々まで愛でていた。
そして奉仕させてもいた。
「あぁ……いいよ。ふふっ。君は上手だね。お礼にあとで君のことも可愛がってあげるから、待っててね」
「ふぁい……♡」
しかし牡牛眞琴の内心は晴れない。だからこそ今日の行為の比重は、愛でるではなく奉仕させるが圧倒的であった。
(なんであんな特徴のない男なんかに……)
牡牛眞琴は挫折を知らない。
失敗を知らない。
そして諦めることを知らない。
だからこそ、目に見えぬ蜘蛛糸で身も心も雁字搦めにする悪辣な超能力者の魔の手に気づかない。
(まあ、簡単に落ちるのもつまらないからね。たまにはじっくりといこうかな)
彼女は心を落ち着かせるべく、部屋に横たわる生まれたままの女体の数々に目を向ける。汗かなにかの体液か、ムーディーな間接照明の光をどこか粘液質に跳ね返していた。
「眞琴お姉様、今度この喫茶店に行きませんか?」
「……へぇ、なかなかいい雰囲気だね。それに評判もいい」
行為がひと段落した頃、1人の少女がスマホを片手に話しかけてくる。その画面には牡牛眞琴の言うように雰囲気のある喫茶店が映し出されていた。
「なんでもとびきり美人な女の子が看板娘らしいですよ」
「でも偶にしか会えないんだとか……」
ハーレムにまるで躊躇いがない、端から見れば異常な光景。しかし牡牛眞琴に蕩された彼女らに正常な思考はない。
「今度行ってみるよ。美味しかったら君たちも一緒に誘おうかな」
まさしく王子様と形容するに相応しい笑みを少女たちに向ける牡牛眞琴。しかしその内心にあるのは新しい獲物のことのみだった。
===あとがき===
たまにしか現れないという謎の看板娘の正体を探るべく、我々はSafariの奥地へと足を踏み入れるのだった……
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