第2話 類友どころか類家族とかいう謎現象
いきなりの生徒会メンバー全員脱退とか怒涛の展開過ぎてついていけない。十中八九、あの早乙女妹の仕業だよな? いかにもなこと言ってたし。だがそんなことをする理由が分からない。
そんな疑問が呼び水にでもなったのか、早乙女妹が前方から取り巻きを連れて現れた。最初は、気づかないフリで通り過ぎようとしてはいた。だが途中で早乙女の顔を見て考えが変わったのか、ニチャア……みたいな笑みを浮かべて立ち止まる。
(……こいつ、絶対タイミングを見計らってたな)
「あら? お姉様ったらなぜこんなところに?」
「で、では私はこれで……」
あっ、あの教師逃げやがった。まあ、早乙女サンドイッチとか罰ゲーム以外の何物でもないし、ごめん被るのは分かるけども。
「
「あらあらぁ。無様な姿ですねぇ、お・ね・ぇ・さ・ま♪ お友達にでも頼んではいかが? あっ、すみません。いないんでしたねぇ。申し訳ありませぇん、気が利かなくて……おほほほほ!!」
……姉妹だわぁ、この煽りは。
などと傍観者ムーブをしていたのがいけなかったのか、くるり、と早乙女妹がこちらへと無駄に整った顔を向ける。
「それにしても、また貴方ですかぁ。獅子院の落ちこぼれさん?」
「それはこっちのセリフなんだが……」
「あらあらぁ。ふふふ……そうだ! どうかしらぁ、貴方の心掛け次第で私と共に行動するのを許してあげますよぉ」
「は? 普通に嫌なんだが?」
(心掛けの内容次第で、前向きに検討させていただきます)
おっと本音と建前が逆になっちゃったよ。
「————は? 今、なんと?」
あー、ヤダヤダ。こういう反応する人って、絶対全部バッチリ聞こえた上で聞き返すんだもんなぁ……。
「嫌だ、って言ったんだ。そもそも俺みたいなのを取り巻きにー、とかもうその時点で碌でもないこと企んでそうだしな」
「あらぁ、貧民は頭まで貧しいんですねぇ。高貴な家の出の私とは大違い。なにを食せばそんな質素な思考ができるのか疑問ですぅ。どうして私の温情をその粗末な足で蹴るんですかぁ?」
クッソ腹立つな!? なんだこいつの言い回しは!? 上級国民の性悪ぶりっ子とかどこに需要があるんだマジで。
……あー、ダメだ。これ以上こいつが目の前にいるとこの場で土下座イキさせたくなる。だが我慢だ。ここでメスガキ分からせしてしまうと精神支配だってバレるのだから。
俺の理性がちょっとでも残っている内にとっとと消えてもらわねば————。
「か、彼は、セイハは私を助けると、そう言っていました! それに『お前みたいなカスの手駒にはなれないし、その提案を蹴る』とも。なのでダメです! あげません!」
「……ん?」
なんかうまいこと言って誤魔化せないと口を開こうとしたところで早乙女が寝言をほざき始めた。……こいつ、なんでこんな必死なんだ? 俺のこと嫌いなんだろ? 意味が分からん。
というか、俺の超能力でヒーロームーブは無理でしょ。各方面に失礼だよね。
「————は? 冗談ですよねぇ? だってそいつについたら負け組になるのは避けられないんですよぉ。ひょっとしてマゾなんですかぁ?」
心底バカにしたような表情、いや雑魚をスポーツ気分で甚振る表情だ。その嗜虐的な眼差しは俺の末路をもう既に己の目に映しているかのよう。
「いや、俺はそんなこと言ってな————」
「いーえ! 『俺は勝ち負けにこだわらない性分なんでな。そういうおままごとは小学生で卒業してるんだ』と言っていました!」
なに言ってんだお前ェ!
あー、もう。聞く耳持たん奴らの会話に巻き込まれるのもうヤダ。
「……後悔しますよぉ」
「『おいおいおい、聞いてなかったのか? 俺はもうおままごとをする年じゃないんだ。……ってか、なに食ったらそんな耳遠くなるんだ? あっ、金持ちだし金を直に食ってんのか。すまんな、配慮が行き届いてなくて』と言っていました!」
「こ、こいつ適当なことを……!」
早乙女の言葉にどんどん表情が険しくなり、青筋を立てる早乙女妹。これまでの会話から分かっていたことだが、彼女は煽り耐性がかなり低い。
マウントを取るのは早乙女と同じ。だが、早乙女美鏡は事前に用意した「正当性」を盾にして
だが早乙女妹にはその能力がない。だからちょっとでも責められるととにかく脆い。……というか星座級第2位の家相手に煽る輩はまずいないから耐性のつけようがないんだけどな。
「死ねッ!」
「理不尽!」
早乙女妹が両手を合わせるようにして叩くと、暖色に輝く電光の鞭が彼女の両手の間から現れる。弾ける空気のバチバチという音と、周囲に無差別に放たれる細かい光。
「お待ちください、美夢様。ここは私が」
まさに殺意の煌めきだ。そしてSMの女王様が如く振り回そうとしたところで、制止する者が取り巻きの中に1人現れる。性格がキツそうな顔の女子生徒だ。
「………………。……そうね、ここは貴方に任せるとしましょう。ではさようならぁ、お姉様」
イライラは収まらないらしいが、これ以上はマズいと思ったのか捨てゼリフを吐きつつその場をあとにしようと踵を返す。が、そのタイミングで早乙女は口を開く。
「あら? もうお帰りですか? もう少しゆっくりしていってもよかったのですが……」
「————ッ!!」
……立ち去るしかない相手にまさか死体蹴りをするとは。ここぞとばかりに煽る早乙女に一周回って感心してしまう。
そして早乙女妹は、100年の因縁を持つ宿敵を相手にしているのかと思ってしまうほどにギラついた視線を早乙女に向けるが、理性がギリギリ働いたのかなにも返さずに歩き出した。
そして彼女と取り巻きらが去ったあと、1人残った取り巻きの女子生徒は恫喝するようにこちらをねめつける。
「……さて、この落とし前はどうするつもりだ? 獅子院セイハ。お前のような落ちこぼれになにができるのか、だがな」
「いやいやいやいやいや!? どうもこうもないんだが? 非があるのは向こうだろ。ってか、早乙女! 俺はそんなこと言ってないぞ!?」
「そうでしたっけ?」
「この……ッ!」
『あとでキツーいお仕置きだ。覚悟しろよ』
『ひゃ、ひゃいっ』
あまりにも白々しい態度を取るものだからテレパシーで覚悟の準備を促す。
にしてもそれ、どういう反応なの? 毎度思ってたけどちょっと喜んでない? 変態なの?
そもそも、ここで俺が否定しても誰も耳を貸さないだろう。発言力が違いすぎるのだ。あと、早乙女妹のあの様子じゃ他人の言葉をまともに聞きはしない。つまり詰み。もう既に早乙女姉妹の争いに巻き込まれてしまっているのだ。だから乗るしかないのだ、このクソみたいなビッグウェーブに。
「はぁ……もう、俺は早乙女
「……小賢しい」
いくら星座級でも、学内でいきなり超能力を行使して許されるはずもない。だが、早乙女は星座級3位という頂点クラス。しかも早乙女妹は直系にあたる。俺みたいな木っ端相手なら揉み消すのはさほど難しくない。
だが、ほぼ確実に他の星座級に、主に美鏡に横槍を入れる大義名分を与えてしまうだろう。
つまり俺自身が抗議しても黙殺されるが、他は違うということ。特にこれに乗じて序列の低い星座級は確実に動くだろうな。奴らは足の引っ張り合いが大好きなわけだし。
それを暗に匂わせると取り巻きの女子生徒は顔を顰める。
うーん、その顔が見たかったァ! 俺に苛立ちを隠せないその顔がァ……フヘヘヘヘヘヘww
「じゃあそういうことで。さっさと家に帰ってママのミルクで飲んでやがれ」
「……」
話は終わった、そんなわけで彼女に背を向けて早乙女の方へと歩き出す。
……にしてもやけに静かだな。さっきから早乙女は一言も発していない。今の彼女は無言で俯いたまま。ワケが分からん。
すると、いきなり取り巻きの女子生徒がバカを相手にする声色で、俺を呼び止める。
「残念だ」
「なにが?」
「……私だけがここに残った理由が分からない貴様の低俗な頭脳が、だッ!」
取り巻きの女子生徒が指を鳴らしたその瞬間、周囲がいきなりぐにゃりと歪む。心なしか、世界の色もおかしい。
「精神干渉系……いや、次元干渉系か」
「その通り。下等なお前でもさすがに分かるか? 私の超能力は『空間狭窄』。さあ、そこに跪け。男風情が早乙女美夢様を侮辱したことを謝罪してもらおうか!」
勇ましく宣言し、手のひらをこちらへとかざして勝利を確信した野卑な笑みを浮かべる女子生徒。後ろを振り返る。……早乙女は射程の外か。あえて、だろうな。
(さて、ここからどうしようかな)
===あとがき===
空間狭窄……強そう!
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