第10話 俺たちの学園生活はここからだ!
「……超能力者の家に生まれる子どもってさ、生まれたときにはもう権力闘争の駒として巻き込まれてんの」
哀理の親が結んだ山本との婚約を解消し、そして奴の元から彼女を救出した日の昼前。俺と哀理の2人は俺の住む安アパートに帰ってきていた。別に俺は彼女と同棲してるわけではないが、あのまま別れて帰るのは違う、それは俺も哀理も同じ気持ちだった。
帰り道では多くを語らず、そして食材を買い、そのまま家の中へ。昼食のハンバーグを一緒に作るさなか、ようやく哀理はぽつりぽつりと語り出した。
「でもあたしはそんなの知らなかった。だから昔は親が作ってくれたハンバーグをなんの気兼ねもなく食べれた。美味しいって、家庭の味だって。……けど、大人に近づくと嫌でも現実が見えてくる。大人たちが繰り広げるどろどろの権力闘争が。それがさ……なんか、昔の思い出までどろどろに汚されたみたいで、家族って関係の全部が嫌になってた」
彼女は俯き、瞳を潤ませながらも淡々と言葉を紡いだ。やっぱり彼女と俺はどこか似ている。だからこそ俺は彼女を助けられた。そうであるならば、今までの生活も全部が全部悪いものではなかった、そう思う。
「俺の父親は俺を不義の子として冷たくあたった。でも、母親は家での立場が悪くなっても俺を大切にしてくれたよ。俺を見捨ててればまだマシな待遇に戻れたのにも関わらず。それは短い期間だったが、とても大切な記憶だ。他の辛いことでわざわざ過去を汚す必要はない、否定なくていいって、自分を大切にしてくれる人はいるって思って今日も生きてる。俺は哀理のこと大切だって思ってる」
「……ありがとう。あたしも大切に思ってる。……なんか、セイハのこと、もっと早くに知りたかったな」
「それは俺もだ。まあ、パシリって繋がりがあったからここまで近づけたってことじゃないか?」
「ふふっ、それもそーだね」
2人で一緒に作ったハンバーグは昨日よりも美味しく感じた。
翌日。いつも通りに家を出ていつも通りに通学。また嫌な不良に絡まれつつ、なんの変化もなく日々は、2度目の灰色の青春は過ぎていく————。
「……どうしてこうなった?」
はずだった。
そして、そう思わずには、いや言わずにはいられなかった。だっておかしいのだ。俺は昨日と同様に哀理と時間差を開けて家を出て登校したはずなのに、気づけばなぜか2人で腕を組んで一緒にクラスへと入っていたのだから。
「あ、哀理!? どうしてお財布と一緒なの!?」
(お財布言うなや! 今までで一度だって払ったことはないぞ!?)
「なにがどうなって……!? いや、勇樹、お前どうしたよ!」
「……別れたんだ。いろいろあってな」
意味分からん状況だが、分かることは1つだけある。別れた、そう言う金髪不良こと勇樹君の記憶と感情を操作して円満に別れたことにしたことだ。
俺は間抜けではない。この手の輩は、なにもせずに放置しておくとあとあと必ず厄介ごとを引き起こすのだ。だから先手を打っておいた。哀理救出Part2とかやりたくないぞ、マジで。動けば動くほど精神支配の露見率が上がるんだから。
……まあ、なにかあったら絶対助けにいくが。つまりは諍いの芽は出る前に潰すのが俺のポリシーということだ。
「セイハがあの豚との婚約からあたしを助けてくれたんだー♪ いやー、男らしくビシッとやってくれてあたしは感激したよ」
「「はえー……」」
「……」
不良仲間2人は感嘆の声を上げる。意外と素直なのか? 対する勇樹君は気まずそうに目を逸らす。そりゃなにもしなかったからな、回答権などないぞ。そして、もっと気まずくなってください。お前がパシリ扱いし始めたせいで、クラスの中での俺の扱いが「見下していい奴」に下がっていろいろ大変だったんだからな。
「(もしかして俺のためにこんなことを?)」
「(お詫びもあるけど、あたしはあたしの彼氏がちゃんと評価されてたいってタイプだからさ。……これからよろしく)」
「(あぁ、よろしく)」
小声で哀理に問うと、少し照れながら「これからよろしく」という。やはり哀理は可愛い。こういう時に普段の鋭い目つきが柔らかくなるのが最の高。
「なにを2人してイチャイチャしているんですか! 不潔ですよ! もっと距離感を改めなさい! ソーシャルディスタンスゥ!!」
「うげっ、早乙女……」
(というかソーシャルディスタンスとかこの世界にあるのかよ……)
いきなり教室のドアをドデカい音出して開け放って現れたのは早乙女
そんな彼女はこちらを見るや否や少し頬を染める。なんだ? いきなり熱でも出したのか?
「まさか気づいていないんですか?」
「「なにが?」」
早乙女は愕然とし、クラスはちょっとざわついている。まるで心当たりがない。俺の顔になにかついているのか? 哀理に目配せしても彼女は首を横に振るばかり。彼女にも心当たりはなし。うーん、謎。
「2人揃って距離が近すぎるんです! なんですか!? キスでもするんですか! それとも当てつけですか? 当て擦りですか!? 当て馬なんですか!?!!?」
「どうした急に」
「ねーねー、セイハ。あんなヒスり魔放っておいてさ、あたしと2人だけでイ・イ・こ・と、シよ?」
蠱惑的な笑みを浮かべて俺の胸をつんつんと触る哀理。流し目と舌舐めずりがエロスをマシマシにする。これだけ聞くと正しく夜のお誘いだろう。
それを聞いた早乙女は眼鏡のリム(レンズの縁みたいなとこ)を抑える手をわなわなさせながら顔を真っ赤にし、勢いよく哀理へと指を指す。
「不潔ゥ!」
「……テスト勉強のことか」
「そそ、次が結構ピンチなんだよねー。……あれれ?
「なっ!? 失礼なっ! しかも、そこはかとなくバカにした別のニュアンスを感じるのですが! 表に出なさい! そして訂正してもらいます!」
「えっ、なにを? ムッツリなところ? それとも……ふふ」
(……やべぇな)
そろそろ止めないと、見た目だけはいい2人の取っ組み合いが始まってしまう。それにこれ以上ヒートアップされるといろいろな意味で困る。
見ろよ、クラスメイトたちの「うわー、ハーレム主人公みたいな展開、現実で初めて見た……」みたいなドン引きの眼差しを。こうなってしまうと、ハーレム築いてるっぽい俺だけが印象悪くなってしまうという謎の現象が起こってしまうのだ。
冗談じゃない。哀理だけならともかくなんで早乙女まで。というか俺はハーレムなんてしてないし、その予定もないが?
(仕方ない、黙らせるか)
『おい、早乙女』
『うひゃぁっ!? い、いきなりなんですか!』
『やかましいぞ。分からせられたいのか?』
早乙女にテレパシーで威圧しつつ、彼女にしか見えない位置取りで手をぬらぬらと動かす。
『(ごくり)す、好きにしたらどうですか……』
(どういう反応なのコレ……?)
「し、仕方ないので朝のところはこれで勘弁してあげましょう。これに懲りたら不純異性交友はやめるように」
ぬらぬらハンドが効いたのか、早乙女は頬を染めながらも咳払いをして振り返り去っていく。サブプランとして「ごりゅごりゅハンド」もあったのだが……まあいいか。
「えっ? 朝?」
「えっ? 不純?」
「……なにか文句でも?」
あ、やべ呼び止めちゃった。でも「朝のところ」なんて言われたら、まるで昼も放課後も来そうだと思ったのだ。仕方ないのでこのまま突っ切る。
っていうか、哀理はなぜ聞き返した? あれかな? 「失礼だな、純愛だよ」ってことか?
「……文句しかないが?」
「そーだ、そーだ!」
哀理がさらに燃料を投下。相性がとことん悪いのか、去ったはずの早乙女が俺たちの前までつかつかと戻り、哀理にガンを飛ばす。
「は? 文句があるなら成績上げてからにしてくれませんか?」
「なら覚悟しなよ、鏡ちゃん。次の中間テスト、あたしが絶対に勝つから」
「私の名前は早乙女
……うわー。気づいたらまーた、キャットファイト始まってるよ。
そして哀理は決定的な一言を鼻で笑いながら放つ。
「……貧パイ」
「なっ!?」
(マジか、いいやがったよこいつ……)
「ダサメガネ」
「ななっ!?」
「剛毛」
「それは絶対に違います!」
(違うんだ……つまりツルツルってことか?)
「つまり貧パイダサメガネなのは認めるってこと? さすが性徒会長。あたしには無理っすわー……」
「そんな脂肪の塊があれば偉いとでも!? そこに栄養取られてるから成績悪いんでしょう!」
「うわー、成績マウントとかないわ……。そうでもしないと優位性取れないとかカワイソー……喪女の僻みは怖いっすわー」
その後もぎゃーぎゃーと2人の言い合いは始業の時刻まで続いた。担任は頭を抱えており、クラスメイトも気まずそうだ。
……なんていうか、性格悪い同士の会話って誰も幸せにならんよな、マジで。
===あとがき===
なんかサブタイからして終わりそうな雰囲気あるけど、もうちっとだけ続くんじゃ!
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