第9話 えっ? ここからさらに覚醒を!?
確信があった。
俺の精神支配、これはまだ未完成。自動発動とか広範囲とか無差別とかそういう話ではない。多分稀代の大犯罪者でも辿り着けなかった領域。
今のままではいずれ俺の平穏は脅かされる。嫌でも表舞台に「精神支配の超能力者」として立たざるを得なくなる。だがせめて精神支配は隠したい。
だから俺はあえて4撃目を受けた。
そしてそれを思い出したのは俺自身の首が宙を舞っていることに気づいた時のことだ。
『哀理のことを想ってくれない奴に哀理の人生を委ねる必要はない。お前は自分の思うように生きていいんだ』
『大切な思い出を否定する必要はないぞ。つまり自分勝手でいい、ってことだ』
一昨日俺が哀理とのえっち後のピロートークの際に言ったことを思い出したのだ。なんかどこかで聞いたことあるテイストの言葉。多分いろいろな人やキャラクターの名言が混ざったんだろう。
でも間違いなく俺の本心だった。その時は彼女の事情なんて全然知らなかった。でも、俺とどこか似ていたからすぐに分かった。
央瀬哀理はひとりぼっちなのだ。
あの時、ハンバーグを食べたいと言ったのも、その作り方を教えてほしいと言ったのも。彼女が今はひとりぼっちで、過去の温かい幻影をハンバーグに投影していたのだ。
きっとそれはもう振り返れない思い出。だから思い出は思い出として美しいままにし、未来を自らの手で捏ねて描き出そうという……つまりはそういうことだ。
(なら、俺も約束を果たさないとな!)
確信があった。
殻を破り、精神支配の先へ行けるという確信が。
人が最もポテンシャルを発揮するのは死の間際だという。あと数秒で来る死。しかし俺は掴んだ。いや。ここは、やはり俺は掴んでいたと言うべきだろう。
そう、死に際で超能力の核心をな!
吹っ飛ばされる首、それに乗せて目標に向けて射出☆ する! しかも首を飛ばされる前には既に狙いはつけていた。ならばあとの心配は不要。
ガハハ、勝ったな。
首を狩った。本当は半殺し程度に留めて連れて行かなければならなかったが、手加減できる手合いの相手ではなかったのだ。そして、これまでの仕事で今までで一番時間がかかった。
初撃を躱されたのは驚いたし、その時手加減できないと、やらなきゃやられると確信した。
影操作。それが私の超能力。影で周囲の人の認識を誤魔化し、影で作った分身を戦わせ、影の中でターゲットが斃れるのを安全に待つ。
それがいつもの戦い方。
だが今回は————。
(首からなにか、飛び出た……?)
透明な板状のなにかがそれなりの速度でターゲットの頭から飛び出た。上半分が透明、下半分が濁った重油のように黒い。そして上半分の左端にはターゲットの名前が書かれていた。
なにか嫌な予感がした。
即座に私は分身を板切れの間近まで高速移動させて追いつかせ、刀を振るわせる。考える余裕なんて微塵もなかった。ただアレが私を終わらせる物体なのだという恐怖だけがあった。
絶対に斬れる。この距離なら目を瞑っていても、そう確信できるその間合いで————。
「なっ!?」
外してしまう。
しかもそれを阻んだのは私自身。私の影操作だった。湧いた影が分身の斬撃を弾き、次がないよう追撃を繰り出す。気づけば板切れは本体の私の手が掴んでいた。
「一体、なにが……!?」
意味が分からない。
なにかがおかしい。
影から這い出た私の表情は能面のように固い。そして私の本体は頭に手にしている板切れを頭に差し込んだ。
止める暇もなかった。
そして切り替わる。
「一手、遅かったな、松岡ミア。待っていたぞ、この時を」
「ッ! ……何者だ?」
「獅子院セイハ」
嘲笑うような笑みを浮かべて今さっき殺した人間の名を名乗る私の本体。
……頭がおかしくなりそうだ。途轍もなく嫌な、そして意味が分からない事態。頭が真っ白になってしまう。そんな隙ができたのがいけなかったのか、私の本体であり獅子院セイハは気づけば私へ向けて手をかざしており、その瞬間に気づけなかった。
「あひぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡!?????」
ぐらり、と勝手に視界が思いっきり上へと向いてしまう。だがそれは余波の影響に過ぎない。本命は下腹部。電撃としか思えない未知の感覚が私のソレを貫いていた。
……おかしい♡ 分身にこんな感覚なんてあるはずないのにぃ♡ そもそも本体がなんで獅子院セイハを名乗るんだ♡
「もういっちょ!」
「んぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡♡♡♡♡」
追撃の電撃は全身だった♡
もう自分がどこにいて♡
なにをしてるのか♡
全然分かんない♡
全身がビリビリと痺れて♡
その場に倒れた時には♡
もう全部の感覚が————♡♡♡♡♡
精神支配は進化した。
なんと、死に際で超能力の核心を掴んだことで人の魂にまで干渉できるようになったのだ。今はただただこの世界が心地良い……! 最高にハイってヤツだ!
そしてこの透明な板(以後、プレートと呼ぼう)は魂を物質化した代物。上半分がその人の魂、下半分が超能力を表す。これを操ることでその人の魂の全てをコントロールできるようになったのだ! 多分、改造人間とかも作れるだろうな。(やらないけど)しかもこのプレートは取り出されてしまうと魂をなくしてしまうと同義。要は廃人だ。
「ふふふ、正に天上天下唯我独尊……!」
なぜ松岡ミアの分身を本体が阻んで敗北へ誘ったのか? それは極々単純なこと。覚醒したお陰で無差別、広範囲、自動発動のいずれもが使えるようになったからだ。
フハハハハハ! 圧倒的ではないか我が超能力は!
……っとこうしてはいられない。速く哀理の元へ向かわなくては。だが忘れてしまってはマズいものがここには2つ。吹っ飛んだ俺の頭とぶっ倒れてる体だ。ちゃんと回収しないと明日からの学園生活に困ることになる。
松岡ミアの分身はドロドロに溶けて消えてしまった。どうやら意識をなくすと自動で消えるらしい。足下の影へと頭と体を収納する。めっちゃ便利だ。一家に一台欲しい。
(なんか、精神を乗っ取られるとか、敗北ヒロインみたいな末路だなぁ……。このあと仲間も洗脳改造しそう。まあ、頭を覗く限り、いないらしいけど)
さて、頭を覗いたお陰で山本の屋敷の場所も分かった。誰がいるか分からないからね。最初は従順に、しかし敵がどんな感じか分かれば————高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しよう。
「ってことがあったんだ」
「もうっ! 心配かけんなや!!」
「悪いな。ちょっと寝過ごしたんだ」
妙齢の女性、つまりはこの体の名前は確か松岡ミア。彼女の体を使って山本の屋敷に来た。影操作マジ便利。俺のプレートを挿しておけば精神支配も使える。実質超能力2種持ちだ。あかん、強すぎる。
それはそれとして、さっき演出に使ったマイヘッドを再び回収して影の中に保管しておく。忘れたら一大事だ。
「まあ、それはさておき。……帰るか?」
「よし、そうしよっか。じゃあな豚。あたしは帰るから」
「待てッ! 貴様は一体なんなんだ! こんなことして許されるとでも!?」
最終回のごとく爽やかに帰ろうとしたら呼び止められてしまった。お腹掻っ捌かれてるのにだいぶ元気だな、おい。
「許す許さないって話じゃないんだ————よッ!」
「「「んぎぃ!?」」」
影操作で作った影の手で3人の頭からプレートをぶっこ抜く。プレート取り出しは相手にわざわざ触れていないと使えない。そこだけは不便かな。
「えっ、ナニソレ?」
「ふっ、ここに書き込むことで精神の支配だけじゃない。魂すらコントロールできるようになったのだよ」
「……つまり命令を書き込んでこの件を片付けるってことっしょ? 前と変わんなくない? それ抜き取る必要あった?」
「……ちょっとはカッコつけさせてはくれまいか?」
「いいからいいから。ほら、さっさと終わらせて帰るぞー」
「うーい」
とりあえず婚約はこの山本とその一味がヤバいことしてたから解消ってことにする。あと警察に通報もしておく。これで央瀬家————というか哀理に角が立たない……はずだ。
そしてそうなるよう3人の記憶は改竄しておく。腹掻っ捌かれたのは影操作で縫い合わせておいた。激しく動き回りさえしなければ大丈夫でしょ。
「……それ、大丈夫? 取れたりしない?」
「俺は出来の悪いフィギュアじゃないぞ。問題ない。魂さえ無事ならなんとかなるのさ」
俺はと言えば元の体に戻っていた。松岡のままだといろいろと日常生活に支障が出るし、俺にそういう趣味はない。……ないんだけどなぁ……まあ、それはさておき。
松岡ミアの支配はそのままだ。ガチの敵として現れたんだ。何事もなかったように解放するのは無理。まあ、あれだね。プレートの実験をする時の被験体にでもなっていてもらおう。
2人で会話しながら山本の屋敷を出る。もう時刻は昼前。そろそろお腹が空いてくる頃合い。これから家に帰ってハンバーグの作り方を教えつつ、食べるのもいいかもな。
「哀理のことを想ってくれない奴に哀理の人生を委ねる必要はない。お前は自分の思うように生きていいんだ」
「!! 思い出してくれたんだ!」
「大切な思い出を否定する必要はないぞ。つまり自分勝手でいい、ってことだ。……遅くなって悪かったな」
「まあ? あたしは信じてたし、ちゃんと待ってたから。……ま、これからよろしく」
「おう。これから————」
「アイちゃん!」
一緒に帰るか、そう言おうとしたところで何者かに呼び止められる。なんかさっきも似たようなことなかった?
「勇樹……」
あぁ、あの金髪不良君か。確か哀理と付き合ってるんだっけ? でもどうしよう。相変わらず哀理の性格アレ感は健在というか多少薄まったかな? くらいとはいえ、もう手放すの惜しくなったというか、これからもこの謎な関係を続けていきたいというか……。
いや、だとしたらここは黙っておくべきなのか。わざわざ公然の関係にする理由は、理由は……————。
「心配したんだ、アイちゃんが無事でよかった。どうよ? これからサボってどっか行かね?」
「勇樹、あたしは……」
「いやー、けど無事でなによりってヤツ? ん? 隣りのお前……なんだ財布野郎かよ。ここでなにしてんだよ。お?」
(俺、もしかして嫉妬してる? 哀理の彼氏になれないから? ……チョロすぎんだろ俺よ。思い返しても、よく前世でカモられなかったというか、
「勇樹。あたし、あんたと別れてこいつと付き合うことにしたから」
「「へ?」」
「いや、なんでセイハまで驚いてんのよ? そういう流れだったっしょ?」
「そうなの!? ————じゃ、じゃなくて、その通りだな!」
一瞬めっちゃ睨まれたし、別に嬉しくないわけじゃないので、うんうんと肯定しておく。すると哀理の表情が慈愛に満ちた笑みに変わる。
うーん、ズルいことにものすごく可愛いのだ。こういう関係になったのって奇跡だろ。
「は? 冗談だろ? なんでこんなヤ————」
「無事なわけないじゃん。あたしの傷見てなんとも思わないワケ? これ、あの豚に蹴られた時にできたんだけど。……なんで気づいてくれないの? それに、勇樹はさ、あたしにしつこくセックス求めてくる癖に浮気してヤリたい放題してじゃん! ……それなのに、なんであたしだけが義理立てしないといけないの?」
「そ、それは……!」
えぇ……? 浮気してたのかよ。ヤリチンっぽいと思ってたらマジだったとは。
「それにあたしが大変な目にあってる時になにかしてくれた? セイハみたいにあの豚から助け出してくれた? 嫌な婚約を解消できるようにしてくれた!?」
「えっ!? 解決したってマジ!?」
「……行こ、セイハ。もう付き合ってらんない」
「お、おう……」
哀理に手を引かれ、2人きりで帰路へとつく。彼女の表情は今までにないほどに澄んでおり、これまであった憂いや嘆きを乗り越えた眩しいものとなっていた。
それを見送るのは央瀬哀理の元彼氏。彼は膝をつき、慟哭していた。
「なんだよ、こんなの……! 哀理、お前は俺の彼女だろ? なんで、なんでちょっと目を離した隙になんで……あんな財布野郎に……」
「こんなの
===あとがき===
唐突なNTRにより脳が破壊されました💥
(3話ぶり2回目)
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