第8話 最強とはすなわち常にメタられる存在

 なんとか刺客云々の問題を片付け、俺と哀理は2人揃って帰宅した。いろいろあったけど個人的に大満足だ。意外にも超能力者との実戦ってアレが初めてなんだよね。ちな決まり手は絶頂。ひでぇな。

 そして哀理お待ちかねのハンバーグ作り。前世でも今世でもハンバーグはたまに作る、そのため今さらスマホや本でレシピを調べる必要はない。


 できあがりは上々、やっぱり自分以外に食べる人がいると気が抜けないので少し疲れる。まあでも心地よい疲労というヤツだな。


「いただきます!」


(……やっぱいいな、こういうの)


 家に1人じゃない、ってのはなかなかいいものだ。それが美少女なら、もっといい。いいねいいね最っ高だね! そう言いたくなる。


「んー! めっちゃ美味しい! セイハすごいね。なんていうか家庭の味って感じ!」


「そうだな。恩人から教わったんだ。それが今の俺の生活を作ってくれてると言っても過言じゃない」


「そっか……」


 前世のことなんて他人には言えない。だから実際に言う時は親ではなく、恩人と表現するしかない。それが少し切ない。


「……ねぇ、今度でいいからハンバーグの作り方教えてくれない?」


「別にいいけど……どうしたんだ、急に?」


「ううん。今度はあたしがセイハに作ってあげたいって思っただけ。そんな気にすんなし」


「そうか……?」


 僅かに感じた違和感。それは翌日、央瀬哀理の欠席という形で現実になったのだった。






 俺は体調不良と嘘をついて早々に早退した。昨日の哀理から感じた違和感。もっと早くに気づいていればこんな不安や、やるせなさを覚えることはなかったというのに。


「クソッ!」


 俺には精神を支配する強力無比な力がある。ならばそれを最初から使って、哀理の心を読んでいればよかったのか?


(……いや、それはない)


 力はあくまで力でしかない。世の中、力以外で解決すべきことがある。この力をもって転生したと気づいた時には気づいていた。だから哀理の心を読まずに、接した。

 だから後悔なんてしない。俺の力で解決するのは哀理の婚約者のことのみ。彼女とのこれからは俺自身で解決する。


「……ガラにもなく主人公っぽいことを考えてしまったな。俺なんてどっちかっていうと寝取り竿役だろうに。……いやまあ、合ってるのか? 今から奪いに行くわけだし」

 

 だがそう簡単にはいかないらしい。


「……まさか正面から来るなんてな」


 普段なら人通りの多い通り。しかし今は俺ともう1人しかいない。不気味とも思えるほどに閑散としており、人の気配が微塵もない。

 数メートル先に立つのは刀を持った妙齢の女性の黒い影。なんかコナンの犯人みたいな真っ黒さだな……。それはそれとして既にその刀は鞘から抜き放たれており、今にも首を狩りに突っ込んできそうだ。


「やっぱ山本の部下か? 俺になにか用でも?」


「フンッ、部下ではない。お前を拉致してくるよう雇われただけだ」


 言い終わると同時、妙齢の女性はその姿を消した。まるで彼女の姿を世界から一瞬で切り抜いたように。


「……チッ」


「痛ぁ!? 危なッ!?」


 だが読んでいた。ゆえに躱すのは大して難しくない————はずだったのだが結構深く斬られた。とんでもない激痛が意識を飛ばしかけるが、精神支配で痛覚を大幅にカットし耐える。彼女は追撃せずにまたどこかへと姿を消す。


(うーん。やっぱりフィジカル凡人じゃ脳筋相手に勝てないな……)


 それはそれとして、今の彼女の消え方と現れ方、まさに瞬間移動。だが、似ているが別物だ。あれは瞬間移動じゃない。とはいえ、違っても似たような効果。だからあの一瞬で俺を切り裂くに至ったのだ。あんな不規則な移動をされると通常の感覚ではまず捉えられない。

 そも、俺の超能力は最強で天上天下唯我独尊だが、俺という人間は凡人なのだ。バトル漫画あるあるな超反射神経は持っていない。その証拠に最初の斬撃は来ると分かっていても避けきれなかった。思考を加速させ脳のリミッターを外しても、だ。


(ふっ、やはり最強は常にメタられる宿命にあるってわけだ。…………やっぱつれぇわ)

「っとお!?」


 飛び退いた場所を中心として、とんでもない轟音が響き渡った。妙齢の女性の斬撃だろう。なんとえげつねぇ破壊力。食らったらミンチよりひでぇやは確実だな。

 いや、さっさと支配すれば勝てるだろとツッコまれそうだが、フィジカル凡人な俺は、ああいう風に超スピードで動かれると狙いが定めるのが難しくなる。一般人が大谷のボールを打てると思うなよ!


 つまり、実際に姿が見えてるか、数珠繋ぎにするにしても起点がないと難しい。広範囲とか無差別とか自動発動とかまだ不完全だし……。


「————ッ!!」


 さらに3撃目。今度の斬撃は首元を掠った。しかも近くの電柱が真っ二つに。どんな切れ味だ、光の流法かよ!

 ……ヤバいよヤバいよ。二手遅れたな、みたいな感じで真っ二つにされてしまう。しかもこっちの回避の仕方の対応にどんどんなれてきてやがる。


 おいおいおい、死んだわ俺。






「ゲホッ、ゴボっ!?」


「全く! 自覚が! 足りん妻だな!」


 山本は何度も央瀬哀理に蹴りを入れつつ、怒鳴りつける。ここは彼の屋敷の隠された地下室。後ろ暗い取り引きを行って得た物品や、逆に贈る物品が保管される場所。同時に、だ。そこで山本は懲罰と称して央瀬哀理に暴行を加えていた。そしてその様子は彼女の両親も見ている。

 超能力者の子息は家のために婚姻に出される駒でしかない。そういう意味で央瀬哀理の両親は超能力者として正常だった。


 今朝、央瀬哀理は獅子院セイハとは別のタイミングで登校した。彼との関係を隠すためだ。だが、すんでのところで山本と両親に捕まってしまい、ここへ連れて来られた。


「全く、哀理は自覚が足りないわね」


「全くだ。央瀬家と山本家のために頑張ってもらわなければならないというのに。なんだ? どうしてお前は冴えない不義の子と一緒になろうとするのだ」


「不義の……? セイハが……? そっか、だから家に1人きりなんだ……あたしと違う。でもあたしと同じ……ひとりぼっち————」


「戻りました」


 央瀬哀理は腑に落ちたように寂しげに、誰ともなしに微笑む。だがそこに望まぬ来客が現れる。1人の女性が瞬間的に地下室に出現したのだ。真ん中に立つ妙齢の女性はナニカを手にしていた。


「ぁ……う、そ……」


「ん? なんだ殺してしまったのか。生きていたら目の前で哀理を孕ませようと思ってたんだがなぁ。……まあいいか」


 彼女が掲げたのは獅子院セイハの首。蒼白となった彼は目を閉じ、首の断面からはぽたりぽたりと血を垂らしていた。

 聡明な央瀬哀理はもはや泣き叫んでも彼が戻って来ないことを理解してしまった。そして俯き、啜り泣くことしかできなかった。


「ははははは! まあいいではないか。身の程を知らんカスが身の程を弁えて首だけになったのだ」


「それもそうだな。では哀理、俺との初夜……いや今はまだ朝か。まあ呼び方なんてどうでもいい。さあ、俺との新婚生活を始めよ————」


 ぐちゅり。


「「「は?」」」


 地下室に怖気立つほどの悍ましい音が響いた。

 山本と央瀬哀理の両親らが驚き呆気に取られるのも無理はない。なんと山本に雇われたはずの妙齢の女性が彼の腹を手にしている刀で突き刺し、捩じ切っていたのだ。

 どんどんと山本の衣服が血の赤に染まっていく。だんだんと力をなくしていく彼は立っていられなくなり、その場に膝をつく。そして妙齢の女性は腹に突き刺さった刀を抜き放った。人の心のない男の腹から人の証である赤い鮮血が舞う。


「なーんちゃって☆」


 まるでちゃちなイタズラが成功した子どもこように、彼女はケラケラと笑い出す。人を刺すという行為に対してあまりにも忌避感のない、そしてあまりにも場違いな笑み。


「松岡ァ、きさ、ま、一体なに、を……!」


「松岡? 誰それぇ、セイハ」


「ぇ————?」


「ハンバーグ、教わるんだよな?」


「っ!!」


 松岡と呼ばれた妙齢の女性はさらに笑みを深くし、山本らを嘲笑う。しかしすぐに央瀬哀理へと視線を向けた。その表情にあるのは彼女が無事でいることへの安堵のみ。そして次の言葉に央瀬哀理は確信し、先程までとは違う涙を流す。


「うそ、セイハなんで、生きて……」


「迎えに来たぞ、哀理」


 そこにいるのが獅子院セイハだというこを。


===あとがき===


 今後もバトル展開(笑)はこうなるので悪しからず……というか、精神支配で能力バトルするのは無理に決まってるだろいい加減にしろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る