第7話 関係ない行けをリアルでやってみる

 いきなり央瀬哀理が部屋に乗り込んできてから数時間後、俺たち2人は布団の中で密着しながら余韻に浸っていた。

 2人で俺の部屋にいる、それが昨日のことを否応なく思い出させる。そんなえっちな雰囲気が流れたせいか、どちらからともなく始まった濃厚接触は俺と央瀬哀理にとびきりの悦楽を与えたのだった。


「ねーねー、セイハぁ♡ 頭撫でてー」


「お、おう……よしよし」


「んふふふふ♡」


 驚くほど甘ったるい声の央瀬哀理は熱と余韻を確かめるように俺に抱きつく。その感触はあまりにも柔らかく、温かい。直前まで激しい運動をして俺の匂いやなんやらもついているはずなのに、彼女からは変わらずにいい匂いもする。いや、そのいい匂いはどういう仕組みなのか増しており、より妖艶に見える。


「んっ♡」


 性格の悪さは今は表に出てないゆえに、普通に超絶美少女にしか見えない央瀬哀理をついつい抱き締める。彼女は行為の余韻がぶり返したのか、艶っぽい声を漏らしてその身を震わせた。

 というかなんか流れで致してしまったわけだが、これでまだ2回目だというのにだいぶ、いやもうアレだね。プロかな? ってレベルでお互い巧いんだよな。央瀬哀理の腰使いがすごいのなんの。まあ、俺の方が上手だったがな。


「そうだ、今日泊まっていっていい?」


 頬を染めて自信なさげにそう問う彼女は、俺の知る普段とはまるで異なり、ギャップ萌えなのかドキドキしてしまう。それに、他人の意見なんて聞かない、そんな雰囲気のある彼女が「泊まっていくから」ではなく「泊まっていい?」と聞くのはなんともいじらしい。


「いいぞ。なに食べたい?」


「うーん、セイハの作るのならなんでも食べたいかなぁ」


「なんでも、か。なら央瀬はなにが好きなんだ?」


「……哀理」


 ちょっと不機嫌そうな央瀬は唐突に自分の名前だけをぽつりと小声で呟く。それを聞き逃す距離ではないし、察せないわけでもない。


「……分かった、哀理はなにが好きなんだ?」


「ふふっ♡ セイハが好き♡」


 ちゅっ、と俺の頬に軽く触れるキス。あまりにも可愛い。婚約者がいるのが惜しい。もしいなければ————。


(いやいやいや。3回目だが、俺はなにを考えてるんだ。哀理なんて、ただ顔と体がよくて俺に見せる表情が可愛くて気兼ねない距離感で普段とのギャップが萌え萌えなだけの超絶美少女……。っよ!)


「あとハンバーグも好きなんだよね。思い出の味ってヤツ? 楽しみだなー(チラッ)」


「ふむふむ、俺とどっちが好き?」


「ハンバーグも好きだし、セイハも好き。ハンバーグ作るセイハはもっと好き♡」


「仕方ないなぁ」


「やったぜ☆」


 悪戯っぽく微笑む哀理を見て、チョロい俺はこんな関係も悪くない、そう思えてきていたのだった。






「奴を……あのボンクラ野郎をどんな手を使ってでも、半殺しにしてでも俺の前に連れてこい!! 生きていればそれでいい。……なにをしてる? 速く行け!! さっさと連れて来い!!」


「しょ、承知しました!」


 山本の言葉を聞いた部下は急いで部屋を出ていく。そして獅子院セイハ誘拐のため、普段後ろ暗いことを任せる部下にその任務を課し、すぐさま派遣するのだった。


「……哀理の奴ふざけやかって……! 俺という婚約者がいながら他所の男と! よくも……! よくもよくもよくも……ウッ」






「ふーむ。近くの人の評判を限りじゃ、こっちの方が味がいいっぽい。よし、お会計に行くか」


 哀理のお願いで夕食はハンバーグに決定し、今はその買い出しに俺1人で出かけているところ。哀理は2人で行きたがっていたが、他の人に関係がバレるとマズいからと言ってなんとか諦めてもらった。彼女自身もそのリスクは分かっているのだろう。引くのは意外と早かった。

 ただ、「ならこの関係をクラスの奴らにも認めさせればいいってことっしょ?」と言っていたのが意味深だった。一体なにを考えているんだ? 不安だなぁ。


 いつも通りに精神支配でもって食品や調味料でなにがいいかを調べ、そして会計へ。「近く」とは言ったがさっきの超能力は街全域が対象だ。なんたって俺の精神支配は最強だからね。この程度のこと容易いのさ。こういう時、失敗しないために勝手に読心アンケートができるのが精神支配のとても便利なポイント。


(……将来、刑事か探偵にでもなろうかな。俺の超能力をフルに使えば一瞬で事件が解決できるし、探し物でも探し人でもすぐに解決。……アリだな。今のうちに『真実はいつも1つ!』とか、『お前の罪を数えろ!』みたいな決め台詞の練習でもしておくか)


 問題は他人に手段を説明できないことにある。……まあ、そこは天才的な閃きでゴリ押せばなんとかなる……か?


 会計を済ませて帰路へとつく。夕暮れと薄暗いの中間くらいの空はいつも通りといえる。だが、今日は違う。1人ではないのだ。それを特別に感じるのは今世の俺が孤独だからだろう。母親は幼い頃に亡くなり、父親からの愛情は皆無だった。

 獅子院は力こそパワーな脳筋超能力者の家系。そして俺にその手の超能力が遺伝しなかったことから母親の不義を父親は疑っていたのだろう。だから学園に入るタイミングで放逐した。表向きは「自分の力で生きて獅子院の強さを自分に証明してみせろ」とかそれっぽいことを言っていたが、実際は縁切りだ。


「人の温もりに飢えてんのかね、俺は……」


 前世じゃそれなりに家族の情があったからか、今世でもそういった情が欲しくなってしまうのは当然のことなのかもしれない。

 生活水準って下げられないからね仕方ないね。


(……ふむ)


 しばらく家へ向かって歩いていると、俺をつけてくる謎の男女の存在を察知した。別に気配が分かる、とかそんな達人ムーブではない。だが、俺は他人の心が読めるし、害意の有無が分かる。


 ————そこの角を曲がったら仕掛けるぞ


 ————了解


 どうやらハンドサイン的なもので口に出さずに意思疎通を取っているらしい。あんまりつけられても面倒だし、乗ってあげるとしよう。角を曲がり、少し進んだところで立ち止まる。


(っ、なぜ奴は立ち止まっている? まさかバレたのか?)


 害意ある2人組の心から動揺の感情が伝わってくる。そりゃそうだ。相手が素人だと思ったら実は達人でした、そんなサプライズドラーイブなわけだし。

 せっかくだからもっと驚かせてあげよう。


「とんでもねぇ、待ってたんだ」


「「ッ!?」」


 本当だったらゴミ収集車から降りて銃をぶっぱしたくなるセリフなのだが、残念ながら俺は持ってない。なので超能力で拘束させてもらう。


「う、動かん! どうなっているッ!?」

(しかもなぜ————)


「なぜ心を読んだような返しをした、そんな感じか?」


「なっ!?」


 振り返ったところ、精神支配で拘束され、俺に内心を見透かされて驚いているのは1人だけ。つまり————。


(ちっ、外したっ!)


「ほーん、動けるのか。さすが鯛下琴奈。余裕の走りだ、馬力が違いますよ」


(素性すら気づかれていただと!?)


(そりゃ頭覗けば分かるさ)


 もう1人は支配を受けていないフリーな状況。

 不意を突いてナイフで切りつけようとしたのはいい。だが、心が読める俺は常に相手の数手先を行く。ゆえにどれだけ技術に差があろうと絶対に彼女の攻撃は当たらない。

 ふふふ、まさに新人類。破廉恥妄想さえされなければ無敵よ! ……まあ、超人ムーブして遊ぶ意味はないんだけどね。そんなわけでほんの少しだけ出力を上げて命令をする。上げ過ぎると解除が面倒だし。


「“動くな”」


「なっ!? なぜ動かな————」


「やっぱり、精神攻撃耐性ってあるんだな。基準を引き上げた方がいいかもしれないなぁ……。さ、“なぜ俺を襲った? 事細かに話してもらおうか”」


「山本様から獅子院セイハ、お前を誘拐するよう指示された。生きていればいい、と。……な、なにが!?」


「鯛下、なぜ喋った!」


「ち、違う! 私は喋ってなんか! 口が勝手に!」


 うーん、これこれ! 精神支配食らったら普通はこんな反応になるんだよ。でもなぜか哀理は気にせず、起きてからすぐにシャワーを浴びに行った。

 コレガワカラナイ。


「ってか、山下って誰だよ」


「山下じゃなくて山本な。認めたくないけど、あたしの婚約者」


 振り返るとそこには哀理が心底イラついています、そんな顔をして立っていた。だがそのイライラはどうやら俺ではなく、俺を挟んで向こう側にいる刺客2人に向けられたもののようだ。


「わざわざ迎えに来てくれたのか?」


「嫌な予感がしたっていうか、まあ、その。ちょっと心配だったってゆーか……。セイハ、生身は弱っちいじゃん」


「失礼な……哀理には全戦全勝なんだが?」


「なっ!? そういう話を、知らん奴の前でしようとするのはやめろぉ!」


 思わず、迎えに来てくれたことに喜んだら、照れ隠しなのか鋭い目つきのまま返事するが、頬は真っ赤になっている。

 うーん、こういうところで可愛いのがズルいよな。


「央瀬哀理様! こいつは異常です! 危険過ぎます! 今すぐお屋敷にお戻りください!」


「あ゛ぁ? 戻る? どこに? まさかあの豚小屋のこと言ってんじゃあないよね? まさかあたしがあのカッコつけの豚のとこ行くと? え? もしかしてあたし馬鹿にされてる?」


 哀理、キレた!

 っていうかキレ方が怖いんだけど、どうなってんのこの子。


「し、しかし、こんな不逞の輩に会うのはよろしくありません! 央瀬哀理様は山本様という婚約者がいらっしゃるではありませんか!」


「ウザッッ。よしセイハ、黙らせて」


「哀理様! あんなどこの馬の骨とも知れぬ————」


「うん、“黙っていようか”」


「「んぐっ!?」」


「さて、どうしたものか……」


 厄介なことになった。


 奴らは俺を怪我させてでも誘拐しに来たとそう言った。つまり、失敗したと報告されたら俺がこいつらを返り討ちにできる力があると伝わる。いや、こいつらが報告できなかったらできなかったで刺客を物理的に消すことができると簡単に推測されてしまう。

 つまり、誘拐されても返り討ちにしてもどっちみち詰みな状況ということ。いや、お前には最強の超能力があるとツッコまれそうだが、バレた時点でどうやってもアウトなのだ。世界中から追われることが確定してしまうゆえに。


 勝ち負けなんて求めない俺だが、平穏は欲しい。だが、どうする? そもそも誘拐な時点で、あの2人を洗脳しても俺を連れていけなかったらそれだけで露見する。幻覚で他人を身代わりにしても、俺が全く無事な時点でいずれはバレる。


「くっ、どうする……! いっそのこと日本全体を支配してNEO日本連邦を建国し、俺の力と存在を誤魔化すか? いや、そんなの本末転倒だ。考えろ、考えろ……!」


「バレないようにしたいんだよね? なら簡単じゃん。あたしがそいつらボコったことにすればいい」


「……あっ、その手があったか! いやけど! 哀理の身に危険はないのか?」


「大丈夫。っていうか、セイハが誘拐されそうになってる時点であたしとの関係が山本に気づかれてるんだから、今さらそいつら返り討ちにしたとしてもあんまり変わんないっしょ」


「まあそれはそうなんだが……。とりあえずそういう流れってことで支配を————あっ、そうだ」


「?」


 全然関係ないが、ふと思いついたことがあった。どうせあの2人は俺に支配されてこの一件を忘れるんだ。せっかくだし、試しておこうっと。


「“鯛下琴奈、イけ”」


「イクゥゥゥゥゥ♡♡♡♡♡!????? えっ♡ あっ♡ なにこれぇ♡」


 急にエビ反りになって嬌声を上げては膝から崩れ落ち、びくびくと痙攣し出す鯛下琴奈。股間を見ればびちゃびちゃとナニカを漏らしており、スーツに色の濃いシミを勢いよく広げる。さらにはコンクリートに水溜りを作った。

 うん、実験は成功だ。夢が広がりんぐ。


「えっ、なになに? 今のなに!?」


「ん? 命令したらイカせられるのかな? って、で、試した」


「……ふ、ふーん。そ、そうだ。今度あたしにもヤってくんない?」


「マジで……?」


「マジで。どんな感じなんだろ、楽しみー♡」


「そっかぁ……」


 うん、哀理の前でやるべきではなかったかな。




===あとがき===


 今さらですけど、

「こんなシチュエーションが欲しい」

「こんな洗脳やら催眠やらの展開が欲しい」

「こんな要素を持つヒロインを出して欲しい」

 みたいな案があったらコメントしてください! なくてもください!(強欲で貪欲)

 すみません、お願いします、なんでもしますから!

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