第4話 なにか大事なことを忘れてる気がする
「なんとか言ったらどうですか? ま、貴方ごときがそんな力持ってるわけないですけどね」
「(ねぇ、この女めちゃくちゃ感じ悪いんだけど。セイハの知り合い?)」
(うわっ、めっちゃ小顔)
相変わらず性格の悪さが滲み出る言い方で問う早乙女
「(あいつは……まあ、一応幼馴染だな。俺が超能力隠してるから雑魚だと見下してるんだ。星座級の恥、所詮下級戦士無様なもんだってな)」
「(ふーん。大変っぽいね)」
「(まあな)」
彼女の問いに同じように小声で返す。
星座級とは、超能力者の家系の中でも特に優れた12の家のことをいう。その下には果実級、砂塵級があり、それら3段階が超能力者の家の格を示す。そして最下級である砂塵級を除いた上位2種には序列がある。獅子院が星座級第2位、早乙女がその次。つまり獅子院はめちゃくそ強い立場。
だから余計に当たりが強いのだ。生まれだけで自分が下みたいな扱いは我慢ならない、そういう思考なのだろう。そもそも俺が彼女を下扱いなんてしたことなんて断じてない。どうせ、周りが勝手にやったか、ただの思い込みだろう。
しかも実家から縁を切られているのを知った上でこの当たりの強さなのだから、悪い意味でブレない奴だ。
「えーっと
「は?」
(おっと、キャットファイト始まったか?)
そしてわざと名前を間違えて煽りに行くスタイル。というかプレイ扱いはやめてくれ。俺がとてつもなく痛いヤツになってしまう。
「それにしても嫌いなのにわざわざ絡みに行くなんて、もしかしてセイハのこと好きだったり? だとしたらゴメンね。もうコイツあたしのだから」
(うわっ、なんかめっちゃ柔らかいモノが腕に当たってるぅ!)
早乙女美鏡に、しなだれかかりつつ俺と腕を組んでそれをドヤ顔で見せつける央瀬哀理。早乙女美鏡はその光景に一瞬眉をピクつかせて怒りを滲ませながらも表情をこれまた一瞬で消し、冷めた眼差しを向けてくる。
「……意味が分かりませんね。私がこいつに好意を持ってるわけないでしょう。ただただ目障りなだけ。それ以外などありはしないのですよ」
「だったら避ければいいじゃん。アレじゃね? 好きな人にちょっかいかける男子小学生みたい(笑)」
「そ、そんなわけないでしょう。第一、私の好みはそんなナヨナヨしたタイプではなく……!」
「まあ、イケメンじゃないのは事実だけどさ、大事なのは中身じゃん? あとアレもね?」
「なっ!? 不潔です! そ、それに大事なのは愛というかなんといいますか……軽薄な関係は大変不道徳といいますか……。と、とととととにかくダメです!」
(中身がアレな人がなにか言ってるよ……というか、クソ失礼な奴らだな。イケメンじゃないのは分かってるから。せめて普通って言え!)
って、コレもしかしなくても誤魔化せたパターンか? よし、ひとまずの危機は過ぎ去ったよう————
「ところで精神支配は事実ですか? もしそうならば貴方を警察に突き出さなくてはならなくなるでしょうね」
あかん、誤魔化せてないわ。……まあ、いざとなったら記憶を消せばいい————
「記憶を消せばどうにかなるとでも? 既に信頼できる筋に連絡は終わっているのですよ。例えあの世紀の大犯罪者と同じ超能力であっても、射程にも精度にも限界はある。電話越しに支配などできるでしょうかね? つまり貴方はもう終わり。分かりますか?」
「えっ!? セイハどうすんの!? ヤバいじゃん!」
「……」
落ち着け、まだ慌てる時じゃない。
というかそんな慌てたら、事実だとそう自白してるようなものなんだが。
「ふん。所詮は超能力頼りの子どもですね。だから星座級の恥だと言ってるのですよ。……少しは焦ったらどうですか? それとも観念でもしましたか?」
普通、精神支配なんて強力極まりない超能力者の前に立って余裕を出せる人はいない。早乙女美鏡が余裕なのは、仮に洗脳されても特殊部隊が俺を制圧してくれると踏んでいるからだ。そして専門の超能力者の力があれば、あとで解除できる。
そういう算段だ。
だからなんだってんだ、って話なんだけど。
「えっ? いやだって焦る要素なんて微塵もないんだが?」
「は?」
「え?」
2人が驚いたそのタイミングで、早乙女美鏡のスマホにちょうどよく着信が。いや、ちょうどよくなるようにしたのだ。
「……私です。制圧準備が済みましたか? なら速くお願いします。これ以上あの男と話してい————」
『早乙女美鏡、残念だが獅子院セイハの超能力は他人をリラックスさせるだけの超能力。それ以上でもそれ以下でもない。……残念だったな。陥れることに失敗して。では失礼』
「————は?」
「えっ? セイハ、これどういうこと?」
電話の相手はそう一方的に告げると、これまた一方的に通話を終える。なにが起こったのか分からない、そんな表情で固まる早乙女美鏡。なにが起こったのか分からずに混乱しているらしい央瀬哀理。
「当たり前だが、どんな超能力であっても射程や精度に限界はある。もちろんそれは俺も例外じゃない。けどな、俺の精神支配は人から人に伝染させられるんだ。今みたいにな」
「そんな……バカ、な……」
「……えっ、それヤバくない? 数珠繋ぎでやれば、命令の条件に合う人なら誰でも支配できるってこと?」
「そうだな。だからこんなに俺は堂々としてるんだ」
当たり前のことだが、俺はこの力のせいで破滅しないために、精神支配をよりうまく扱えるよう日々の鍛錬を欠かしていない。そのお陰で今みたいに人づてに支配することもできる。やはり努力、努力は全てを解決する。
「じゃあ早乙女美鏡。俺の超能力について忘れてもら————」
「ちょっと待って」
「なにをだ?」
自分のこれからに絶望でもしたのか、早乙女美鏡は膝から崩れ落ちて放心している。そんな彼女を放置し、記憶を消しつつ違和感がないように改竄しようとしたところで央瀬哀理になぜか止められる。
「記憶を消すんじゃなくて支配しちゃえばいいんじゃない?」
「なっ!?」
「それこそなんでだ? 忘れさせるだけでいいだろ」
「妙だと思わない?」
「妙……?」
そんな名探偵みたいなセリフ言われても凡人の俺じゃいい感じの回答はできんぞ?
「鏡ちゃんはなんであんなタイミングよくセイハの超能力のことを話してる時に現れたんだろうね?」
「……ッ!」
「そりゃ、金髪ギャル————じゃなくて央瀬が口を滑らせたからだろ。あそこで言わなかったらバレてなかったぞ」
「い、いや、それはただの偶然だし、第一あたしがセイハを陥れるようなことなんてするわけないんだけど!」
ふむ、どうやら嘘じゃないっぽい。精神支配はとても便利で相手が嘘をついているか否かも分かる。その万能さは全ての精神干渉系の超能力を過去にするレベル。テレパシーもできるし、読心もできる、幻覚を見せたりetc……。
「つまりなにが言いたいかっていうと、この女、セイハのことを結構な頻度でストーキングしてる。そうあたしは推理したってわけ!」
「……まあ、そうかも……?」
ふふん♪ とドヤ顔で己の推測を語る央瀬哀理。
……筋は通っている、気がする。確かに偶然聞かれてたにしてはタイミングが良過ぎる。ここ(屋上前の階段)に来るのだって、俺が不良に引き摺られて来たって体なのだ。偶然という可能性もゼロではないが、俺のことを心底嫌ってる早乙女美鏡がわざわざ追ってくるとは考えにくい。……まあ、「俺も混ぜてよw」展開も否定はできないが。
「つまり、央瀬はこう言いたいんだな? 記憶を改竄しても、また同じようなことをされてバレる可能性がある、と」
「そういうこと♪」
やっぱすげぇよ央瀬は。ただのいけすかない金髪ギャルではなかったか。さすが婚約者がいるだけのことは————あれ?
「……そういや、昨日の婚約者との食事はどうしたんだ?」
「……あっ」
===あとがき===
数珠繋ぎ? えっちなのはダメ! 死刑!
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