第40話「高速戦の行方」

 起動したMメーザー・Vバイブレーション・Eエッジは刀身に赤い輝きを宿す。高周波振動を利用して物体を切断する武器だ、という事を示すための演出である。


 剥離はくりしたリアクティブアーマーが作る分身にはない色は、迫ろうとするアシュリーにとってはいい目印だった。


 ――行くぞ!


 アシュリーのビームセイバーは、丁度、MVEとは対照的になるグリーンの輝きを放つ。


 ――もう反応増幅装置は終わりだろ!?


 失速していくフォーレストに、アシュリーはギッと食いしばった歯を鳴らした。


 スーパーチャージャーは既に停止している。カタパルト射出の加速も限界が近い。追加ブースターも息継ぎでもしているかのように、ブースター炎が揺らめいていた。


 そんな状態でも、機体がオーバーロード状態から脱するか、リアクティブアーマーが全て剥がれ落ちてしまわない限り分身は続く。


 アシュリーの接近を知らせるアラームが鳴るコックピットで、じゅんは一度、強く「よし!」と声を張り上げた。


「こっちも行くぞ!」


 追加ブースターを切り離す。加速が急激に失われた振動をブレーキ代わりに、惇は機体を急制動させる。


「!」


 アシュリーは対処する。追撃に対して旋回するのは常套手段である。


 ――ここで空振りするのはアホのする事なんだよ!


 反射的にやってしまいそうになる行動は、全て押さえ込む。空振りから体勢を崩し、敵機を見失う事の方が今は恐い。


 惇も旋回から即攻撃に移らなかった。


 ――空振りはしないか!


 攻撃は相手の体勢が崩れた時だけだ。フォーレストの速度は惇が戦闘できる域を出ている。


 交叉に剣の閃きはない。


 互いに弧を描かせて旋回するだけ。この旋回は、アシュリーが有利だ。


 ――旋回時は減速しなきゃダメだろ!


 先に攻撃態勢に入るのはアシュリーだ。しかし――、


「照準……無理か!」


 ビームライフルで狙うには、フォーレストは速すぎる。立ち止まっていれば見越し射撃もできるが、ここで立ち止まる勇気はアシュリーにもない。


 対する惇は、照準などお構いなしにトリガを引く。パルスレーザー式突撃銃は、寧ろ連射して使うものだ。


 ただし照準など無視しているのだから、アシュリーに直撃など望めない。


 ――ビームは今、弱点になってるんだけどね。狙ってこない気か!


 何が何でもMVEで戦う事を選ぶのならば、今のアシュリーには煽りだと感じてしまう。実体弾の防御を上げるためビームの防御を犠牲にしているアシュリーには、パルスレーザー式突撃銃での戦闘が向いている。


「来るなら来い!」


 怒声と共に、アシュリーは敢えて惇の真正面に立つ。


 ビームライフルを背のラックに戻し、ビームセイバーを2本、両手に持つその姿は、惇にはクォールとの一戦を思い出さされた。


「勝負!」


 故に惇の口から、この一言が出る。


 総循環を握る手には、知らず知らずのうちに力が込められていた。


 ――行くぞ!


 覚悟を決めるのは、この交叉には必殺の一撃を込めるつもりだからか、クォールが祖父と見た特撮の必殺技を入れていたように、惇もアタックパターンに入れた。


 忙しい母と見ていたアニメのモーションだ。


「ッ!」


 歯を食いしばり、続いて機体からパルスレーザー式突撃銃を廃棄させる。


 MVEを両手持ちにして大上段に構えさせ、スラスターに気合いでも入れるかのようにスロットルを一度、叩く。


 アシュリーは思った。


 ――丁度いい!


 パルスレーザー式突撃銃を廃棄したフォーレストは、もう至近距離でのMVE以外に頼るものがない。


 それは黙っていても、アシュリーが狙っていた近距離に来てくれるという事だ。


「子供だましは、もうやめだ!」


 ビームセイバーではなく、両肩に装備されていた対機化猟兵用のクレイモアで迎え撃った。磁力を利用し、前方の広範囲にベアリング弾を発射するクレイモアは、真正面から突っ込んでくる惇にとっては、正しく死の罠。


 ここで明暗が分かれる。


 惇の耳に噛み付くが如く、けたたましいアラーム音が鳴り響く。


 当然、レッドアラームも含んでいるのだが、しかしcriticalを告げるアラームはない。


「フォーレスト!」


 最後のリアクティブアーマーが守ってくれた。クォールと戦うために仕上げた機体が惇を守ったのだ。


 ならばアシュリーへ一太刀浴びせるのみ――大上段に構えたMVEを、すれ違い様に叩き込む!


 今度はアシュリーのコックピットにアラーム音がこだまする。


 ――こいつ……。


 フォーレストを睨み付けるアシュリー。


「ここまでできるのに、何で相手をバカにする方へ行くんだよ!」


 アシュリーが振り向きざまに投げつけたビームセイバーは、果たしてフォーレストに突き刺さったのであった。

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