第38話「機化猟兵隊」

 高浜がじゅんを指名したのは、フォーレストに乗るからだ。


 格納庫にあるフォーレストには、高浜が新装備を仮設させている。



 それを見上げる惇の顔に浮かんでいるのは、困惑であった。



「これは……?」


 バックパックに弾頭を取り除いたミサイルが突き出ているフォーレストの姿は、不格好としかいい様がない。


 高浜も不格好という評価には苦笑いで返す。


「確かに不格好だ。仮設でなければ、S級じゃなくなるからな」


 フォーレストをS級に留めるために、特殊な装備は仮設物でなければならない。


「このミサイルは、弾頭だけでなく炸薬や信管も抜いている。急造の追加ブースターだな」


 急造の仮設であるから、これは当然、使い捨てだ。


 だが追加ブースターを装備する理由は、やはり惇にはわからない。


「でも加速なら、スーパーチャージャーもありますよ?」


 カタパルト射出と組み合わせれば、ミサイルと誤認させる程の速力を得られる。


 ――これ以上、スピードを上げる?


 戦艦は速力こそが最大の武器だろうが、機化猟兵は違う。火力特化、装甲特化はよく聞くが、過剰なスピード特化はない。


 だが高浜は断言する。


「フォーレストの最大の武器はスピードだ」


 そして必要以上の特化ではないという。


「最高速を高める事でできる事が増える。だから今の状況で、たかむらが全力を出せるんだ」


 必要な強化だ。


「次のターン、すぐに篁と晶を出す。当然、読まれている」



 ***



 高浜の言葉など、当然の事だ。


「次、機化猟兵きかりょうへいが出てくる」


 三分割した艦隊を叩こうというのだから、当然、接近戦に移行する。そうなれば単縦陣たんじゅうじんを敷いていた高浜の艦隊には衝角での攻撃がよく効く。


 ならば高浜は機化猟兵を出すしかない。


「で、だ」


 ベクター・ツヴァイトはアシュリーを振り向いた。


「奇襲があるだろう」


 防衛だけに機化猟兵を使う訳がない。


 そして奇襲といえば、事前に知っている知識によれば、晶と惇がする。


「コムギさんは、相手のエースを抑えてほしい。こっちだって、旗艦を潰されたらお終いだから」


 晶は全距離、全方位で戦える。旗艦を識別されれば、確実に沈められてしまう。


「そしてアシュリーさんは、当然――」


 ベクター・ツヴァイトは、デューン――惇だと最後までいわせてもらえなかった。


 アシュリーはベクター・ツヴァイトの声をさえぎって口を開く。


「僕がやるよ。フォーレストだろ?」


 そのために弧宮から策を授けられたのだから。

 アシュリーの表情に宿る決意に、一瞬、ベクター・ツヴァイトは迷う。


 ――聞く耳があるか?


 直接、ぶつかれば言葉を交わすチャンスもあるだろう――信じる以外にない。


「……あぁ、頼むよ」


 思考時間を終了し、移動フェイズに入る。


 旗艦バファローの艦橋で、ベクター・ツヴァイトは見た。


「高浜さん、何だ? あれ



 高浜が手を加えたフォーレストの異様な姿。



「いや、今はいい!」


 出撃してくる機化猟兵は、ベクター・ツヴァイトが気にする点ではない。


接舷せつげんする。衝角を使え!」


 三分割した中部と後部を、どう料理していくかがベクター・ツヴァイトの仕事だ。


 ――反転せず、姿勢制御用のスラスターを使ったのは、流石は高浜さんだ。


 三分割されてしまったが、高浜は陣形を保持できている。


 数的は有利は動かないが、一方的に蹂躙できる程の混乱はない。


 ――兎に角、接舷して格闘戦だ!


 中部と後部を捕まえるしかない。


 その様子を見る高浜は、パンッと手を叩いた。


「旗艦が分かったぞ!」


 艦隊運動のクセだ。単縦陣を指揮する場合、総指揮官の乗艦は先頭に位置するしかない。


 しかし二列に分けている今、どちらがベクター・ツヴァイトのバファローか判断がついていなかったが、艦隊運動のクセが高浜を閃かせた。


「篁!」


「はい!」


 高浜の指示する戦艦へ、惇は視線を突き刺す。


「フォーレスト――」


 カタパルトに乗る惇は、フォーレストに与えられた装備を確かめていく。


 ――カタパルト射出、スーパーチャージャー、そして仮設ロケット!


 その全てを、これから一気に点火するのだ。


「行きます!」


 射出されたフォーレストのコックピットでは、惇が顔を歪ませるしかない状況が訪れる。


「何も見えてないぞ!」



 高速度で入る演出が、これでもかと襲いかかってきたのだ。



 操縦桿を握る腕が、後方へ引っ張られるように感覚に陥る。


 視野狭窄が始まる。


「いや、目標は教えてもらった。行く!」


 スロットルは死んでも戻さない。


 そしてフォーレストが最高速に達した時、変化が訪れる。


 バファローの艦橋で、この戦場をコントロールしているベクター・ツヴァイトですら声を荒らげさせる変化だ。


「機化猟兵? 何機いる!?」


 レーダに突然、有り得ない数の機影が現れた。


 高浜の顔は「してやったり」と笑みが。


「!」


 だが高浜の乗艦にも、衝角を受けた衝撃が襲いかかってきた。

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