第36話「艦隊出撃」
理由はわかっていたからだ。
――俺と、あの連中の艦隊戦が凄い勢いで拡散されてるらしいから、それでか。
衝突を呼んでもおかしくない
憤りを覚えられるのは当然で、ある事ない事いわれるのも仕方がない。
――感受性が強い奴が見たら、義憤に駆られるだろうなっていうのもわかってたが……。
その相手と知り合いになる事は、高浜も予想の範囲外だったが。
ただベクター・ツヴァイトはいった。
――アシュリーさんを説得するのは簡単だし、
悲劇的な別れになってしまうといわれると、高浜は残念に思ってしまう。住んでる場所も年代も違うのだから、所詮はか細い縁でしかなく、切れてもなかった事にしてしまえばいいと考えるならば、教師などやっていない。
――俺は、たまたま近所に生まれた同年代が集められただけ、なんていわれる空間にしたくなかったから教師を目指したんだ。
高校は義務教育ではないため該当しないといわれるかも知れないが、教師として「たまたまだ」といわれるような何でもない生徒が、友情を結べるようにしたいと思っている。
アシュリーから敵意や悪意を取り除く方法――、
「ゲームで、それができるはずだ」
呟いた後、高浜は生徒4人に顔を向けた。
「受ける。全力でゲームしろ」
やる事はいつもと同じだ。
「オンラインゲームは、実際に人同士がぶつかれるからこそわかり合える事がある」
辿り着いた結論も、ベクター・ツヴァイトと同じ。
とはいえ、惇は難しい顔を引っ込められない。悪意を向けられたのが自分という以上に、懸念がある。
「
相手のしたい事をさせないのが、対戦のセオリーだ。それ同士がぶつかり合えば、自分の全力というものが、どれだけできるのか? という疑問が、惇の顔を曇らせている。
だが高浜は、それは気にしていない。
「出せる。出せるタイミングで、俺が出撃させてやる」
バトルロイヤルと艦隊戦は違う。艦隊戦は、提督の判断が介入できる分、パイロットを活かす手は必ずある。
絶対ではないが。
「ただ――」
高浜も苦い顔はどうしても現れてしまう。
「ベクター・ツヴァイトさんは、俺より上かも知れないが」
ベクター・ツヴァイトと高浜は、互いに互いが上手と思っていた。
だが重苦しい空気は来ない。
「ショウちゃんの片思いの彼氏なんだから、先生、頑張って。妹は渡さんっていってやれ」
当然、晶は困り顔。
「弥紀。そのネタ、いい加減にしてくれ」
ベクター・ツヴァイトにも迷惑がかかりかねない。
だが弥紀はキリキリと音がしそうな雰囲気で顔だけ晶へ向ける。
「去年の事、覚えてるからね。合同誌に参加するけど、ネタがないからくれっていわれた時の」
「ん?」
晶は一瞬、考え込むが、「あぁ……」と声のトーンを落とした。マンガ部から出す同人誌にゲスト参加した時の事だ。
「恋愛ネタがないから、サムと弥紀に彼氏はいないかって聞いた事か?」
「いないっていったら、どういったよ? ねェ?」
と、弥紀がサムへ顔を向けると、サムは「Oh……」と顰めっ面になり、
「さもしい女の集まりだっタか」
それには惇も吹き出した。
「それは流石に酷い」
「だからいじれる以上、いじり倒すから!」
弥紀のコレは悪意こそ薄いのだが、高浜が綺麗に
「直に声を掛け合えるから、悪意や敵意の有無を分からせられる。だからいつも通りだ。勝敗じゃない。過程に拘れ」
アシュリーと握手できなければ、このゲームは失敗なのだ。
***
コンコルディアが告げる。
「フィールドは宇宙。暗礁域なし。ターン制限15ターン」
Point Blank艦隊を相手にしたところとは大きく違う。上下の別がなく、また相手の砲撃から守ってくれる暗礁域もない。
そして高浜は見た。
「二列縦隊?」
バファロー・リード艦隊の陣形は、3隻ずつ二列に配置している。
「二列で突っ込んでくる?」
ベクター・ツヴァイトが奇策を用いてくると覚悟して尚、高浜は困惑した。
そして高浜の判断は……、
「一方で中央突破、もう一方で後方遮断か……?」
単縦陣の薄さを突いてこようとしている、と考えた。
丁字作戦に乗りつつ、それを突き破る手段を取っているのだ、と。
「退路を断たせるな!」
敗北を気にするなといった高浜が、退路を確保しようとした。
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