第6章「拡散した悪意の結末」

第29話「君と遊びに行きたいんだ」

 クォールとの再戦で得たものは大きい。


 スプライトがフォーレストへ強化された事と、フォーレストを得た事でじゅんの中に現れた気持ちが貴重だ。


 弥紀みのりはそれをだという。


「昔の自分を取り戻したように、ゲームを楽しめるようになったのは何よりだと思います」


 惇はスコアとテクニック争うにうんざりしてゲームから疎遠になっていた。


 それがクォールとの対戦では、「どれだけ格好つけられるか」とか「どれだけはっちゃけてふざけられるか」とか、楽しい事を探す意識に目覚めた。


 弥紀は高浜たかはまを前に訴える。


「勝敗みたいな結果より、どんな戦いをしたかっていう経過に目が向いくって、先生が向かいたい方向でしょう?」


「そうだな」


 高浜は要領を得ないという顔をし、弥紀と、その隣でウンウンと頷いている妹に目を向けた。


「で、何を提案したいんだ?」


 惇がゲーム好きに戻ってくれてめでたいのは、高浜とていわれるまでもない。


 それを態々、高浜にいう、それも妹もついてくるという事は、隠された言葉があるはず。


あきら?」


 兄の視線は何かを見透かしたようであったが、晶は軽く、しかし態とらしく肩を竦めてみせると、


たかむらくんを改めて歓迎したいのさ」


「ん?」


「いい季節だし、今の時期を逃したら、みんなで出かけられるのは、かなり先になるだろう? 連休は丁度いいチャンスだ」


 いつの間にか春の連休が目の前に来ていた。


「それに、連休が終わったら、篁くんにとって高校で初めての中間テストだ。ここでちゃんとしてないと、後々、尾を引くんじゃないかな?」


「……」


 高浜は顔色ひとつ変えずに聞いていた。


 ――高校初めてのテストだから勉強する……って、晶自身がしてなかっただろ、去年。


 妹が殊更ことさら、口数を多くしてしまう時、何かが裏にあるのを知っている。


「はぁ……」


 高浜は大きく溜息を吐いた後、


「本音は?」


「皆で泊まりがけで遊びに行きたい」


 あっさり出て来た晶の本音であるが、高浜は額に手をやって大袈裟な仕草をしてみせて、


「あのなぁ……」


 高浜は、生徒が泊まりがけで遊びに行くといわれると、学生の分際で、といわなければならない立場だ。


 だが遠出しようという訳ではない、と晶はいう。


「キャンプするにはいい季節でしょ? 道具は大抵、揃ってるし、食材くらいじゃないか、必要なのは」


 確かにテントのようなものはレンタルすればいい。


 だが晶、弥紀、サムの三人ならばそれでいいが、そこに男子生徒が加わるというのなら話は別だ。顧問として、高浜は同好会の活動を管理、監督する義務がある。


 だが無下むげに却下するのも、顧問の責任を果たしているとはいい難い。


「グランピング」


 高浜は妥協した。


「グランピングなら許可してやるし、何なら俺がポケットマネーを出す」



 ***



 駅から一人、ボストンバッグを抱えた男が降り立つ。ボウズに近いくらい短く刈り込まれた髪を丸い顔の上に乗せ、ハの字の眉が人の良さを感じさせる男だ。


 春の連休は、春といえども、昨今の気象は汗ばむくらいである。


「あちー」


 手で顔を扇ぎながら、待ち合わせに丁度いいベンチに腰掛け、メッセージを打つ。


 ――今、ついたよ。


 送信する相手の名前は、ベクター・ツヴァイト。



 彼こそが、晶も認めた艦隊の一員、アシュリーである。



 ――こっちも、もうすぐつく。赤いSUVに乗ってる。


 今日、ベクター・ツヴァイト、アシュリー、コムギの3名も集まってグランピングにしゃれ込もうとしていた。住む場所が別々の3名であるから、車を持っているベクター・ツヴァイトが、電車やバスを使って集まった二人をピックアップする段取りになっている。


 ベクター・ツヴァイトへもう一度、「了解」と返してから、アシュリーはスマートフォンをブラウザに切り替えた。

 暇つぶしに見たスマートフォンのページは、後に不幸を呼ぶ事になる。


 ――無意味な拡散してんじゃねえ! 勝負は時の運だろうが!


 それを書き込んだのは、果たして誰か……?

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