第28話「ありがとう」
――押されるなぁ!
まず相手の距離で戦闘をしない事を念頭に置いているクォールだが、晶と弥紀のコンビならば、引きずり込まれてしまう。
確実に相手の間合いから外れるためには逃げるという選択肢もあるのだが、逃げれば弥紀の銃口が向けられる。
「それ、対艦砲ですよね!?」
バード・バニッシュにクォールが歯噛みしていた。取り回しの難しい武器であるから、
弥紀ヘヘッと笑いながら、
「いざとなったら、ショウちゃんごと撃っていい事になっておーる!」
だから撃つ時は撃つ、などと冗談めかした。晶も「うん」と頷いて、
「味方の弾に当たるのは間抜けって事にしてっていってるね」
撃たれた事はないが、撃たれても恨み言はいわない。
そして撃つ事が戦術上、正しい事もある、と分かっているクォールからは苦笑いが引き出される。
「確かにコストを考えたら、相打ちも悪くないんですっけね!」
ノッカーのコストは、AI制御のワイヤレスガンポッドを搭載している分、かなり高い。熱風とノッカーを引き替えしていけば、艦隊戦がターンオーバーの判定にもつれ込んだ場合、クォール側が敗北となる。何より艦隊戦では、クォールは総指揮官なのだ。他に何を置いても撃つのが正解である。
ただし晶がクォールを抑えつけ、弥紀が砲撃続ければ勝てる――などという選択肢は、今の晶にはない。
「まぁ、ゲームとしては悪いさ。だから選ばないよ」
勝負優先だといえる程に、晶もクォールとの戦いは面白い。アクションパターンに解析動画を組み込めばいいといった晶の言葉を、クォールは兎に角、実行したようだ。
格闘技とヒーローのアクションを、入れられるだけ入れたのだろう。
――しかし発動タイミングは手動だよ? ミスしないじゃないか。
上手いと晶も認められる。
とはいえ、そろそろノッカーもレッドアラームが何度か鳴っている。
――僕じゃ、まだまだだ。
子供の頃、祖父と楽しんでいたヒーローには、まだまだ遠い。
「ッ!」
晶のビームセイバーが装甲を捉えた。レッドアラームだ。正面装甲のダメージが、次は撃墜に繋がりかねないレベルまで低下した事を告げている。
そこで戦闘フェイズが終了し、ターンが切り替わるのは幸か不幸か。
――今更、指示はない!
思考時間は即終了させる。自分はここで晶と弥紀の相手を続けるのみ。CPUにパターン制御させている僚機への指示も、そのまま経戦だ。
何より次のターンに復帰してくるであろう
――戻ってくるんだろう?
何を仕掛けてくるかわからないが、必ず惇は新たな一手を仕掛けてくる。これは確信めいたものを感じるくらいだ。
移動フェイズが始まる。
新たにカタパルトに昇ったフォーレストの姿は皆の目を厚めはしたが――、
「誰?」
弥紀ならずとも、全員が思った。対戦の最中に新型が投入される事などない――昇格されるまでS級を乗り続ける事がないに等しい状況では、そう思うのが当たり前だ。
だがクォールは気付く。
「プロモーションか!」
そのシステムは、すぐに惇と結びつけられたからだ。
惇はクォールとの再戦のために磨いた腕があるといった。
「そうか」
クォールは思う。ゴブリンをカスタムしてA級に仕上げたクォールに対し、惇が武器を持ち替えさせた程度でS級に留めた理由。
「機化猟兵の強化も忘れてないってか!」
自分とは対照的なアプローチを、この決定的な場面で出してくる。
「鳥肌が立つな!」
移動フェイズが終わる。
戦闘フェイズの動きは誰に言われるまでもなく決まっているが、高浜は敢えていう。
「わかってると思うが、
ワイヤレスガンポッドやクォールの僚機が動いているが、そんなものは無視する。
「はい!」
心持ち大きな返事に、高浜は白い歯を見せて笑う。
「それと――」
笑いながら、いう事がある。
「フォーレストは、できるぞ。アレ!」
代名詞しか口にしないが、この場面、この相手に対していうアレとは、惇が理解できる。
「わかりました! 出ます!」
フォーレストがカタパルト射出される。
惇はコンソールのボタンを押し込み、スーパーチャージャーを始動させた。
「!?」
もう一段、鋭い加速が発生し、クォールのコックピットにアラームが鳴り響いた。
「ミサイルアラート!」
カタパルト射出とスーパーチャージャーの二段階加速により、フォーレストもミサイルと誤認されるスピードに達したのである。
クォールと惇の救援に駆けつけた晶の熱風と同じだ。
クォールは熱くなるのを感じた。
「来たなァッ!」
発する言葉も、興奮が溢れ出ている。
「あァ!」
惇も、このタイミングで、この境地に至れた偶然を、必然と感じる程だ。
移動フェイズが終わり、戦闘フェイズが開始される。
惇は
クォールはパワーインジェクターを発動させ、晶と弥紀を振り切りに懸かる。
しかし阻止するとばかりに、晶はスーパーチャージャーを発動させた。
――無粋かな? いいや、違うね!
晶と同じ想いがある弥紀もバード・バニッシュを構える。
「切り抜けるところが、格好いいでしょ!」
手心は加えないが、クォールならば晶と弥紀を振り切って、惇に必殺の一撃を放てるはずだ、と。
背後から迫る攻撃に、クォールは忙しなくコンソールに指を滑らせていく。
「パージ!」
まず両肩に装備されているスクウェアバインダーをパージする。加速していくノッカーであるから、パージされたスクウェアバインダーは後方へ放出される事となり、晶の足止めになる。
しかし晶はビームセイバーを抜き、
「いいやッ! 何とかなるさ!」
右へ一閃、左へ一閃。スクウェアバインダーを切り払って進む。
それで稼いだ差を、弥紀がバード・バニッシュによって強引に埋めてくる。
「当たれば一撃必殺!」
傷ついたノッカーならば直撃せずとも、それこそビームの威力圏内にいれば誘爆する事も有り得る。
「なんのォッ!」
クォールは気合いと共に、操縦桿を操る。フットバーを蹴り、加重移動を利用して起こすのは、得意とするホイールダッシュでのドリフト走行。
バード・バニッシュがもたらしたダメージがアラームを点灯させるが、もう確認もしない。
――機体が動いてるのなら、無事って証拠だ!
晶と弥紀を躱して稼いだ一瞬で、惇に向かう。
――こいつだ!
大きく足を広げた四股のようなスタンスに、右手を開いき、左手は拳を握って下に構える。
急制動で両足を揃えて踏み切ると、左手と右膝を突き出す跳躍から、身体を捻りつつムーンサルト。
この対戦の開幕を知らせたクォールの「必殺技」に対し、惇は真っ直ぐ。MVEを脇に構えて飛ぶのみ。
――俺はアタックパターンに入れられてないけどな!
クォールが繰り出すのが、この対戦の開始を告げる号砲代わりの技ならば、惇は、ここで繰り出すべき技はひとつしか思いつかなかった。二人の縁が結ばれた一戦で、惇の同好会活動を決定づけた一撃。
真っ向から向かってくる惇のフォーリストに、クォールは一言、「ありがとう」と告げる。
そして繰り出す必殺の技。
「
それに対し、惇も気を吐く。
「勝負!」
ミサイルと誤認させるスピードから繰り出された、熱風の真っ向唐竹割り。
交叉が起きる。
閃光は二条。
結末は――、二機の機化猟兵が共に光に包まれる事だった。
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