第26話「白熱・熱中」

 ノッカーはブースター炎を背に突進してくる。アクロバティックな動きは意味のないものだが、そのアクロバティックなジャンプがあるから、この跳び蹴りが奇襲として成り立つ。


 意味がなく、また派手な行動を目にしたじゅんは棒立ち同然になっていたのだから。


 高速で迫り来る大質量は驚異で、直撃をもらえばスプライトでは大破しかねない――と、あきらが動いた。


たかむらくん!」


 庇うというには、余りにも激しく突き飛ばしてノッカーを回避させる。


 着地。


 そして轟音と爆発。


 かつ鷹司たかし大輔だいすけが祖父と一緒に楽しみにしていたヒーローの必殺技は、その名に相応しい威力を示した。


 しかし惇を突き飛ばした晶は、回避できれば突出したクォールは包囲された状態だ、とビームセイバーを抜く。


「孤立しているよ?」


 接近戦を自らの距離にしているのは、クォールのノッカーだけではない。晶の熱風は、全方位、全距離の対応を念頭において構成している。


 ミスか? ――違う、とクォールはLバトンを抜くと共に頼りになる「相棒たち」を呼び覚ます。


「してますね。でも!」


 両肩に懸架けんかされたワイヤレスガンポッドが解き放たれた。


 ゆうも使ったワイヤレスガンポッドは、宙を自由に飛翔して様々な角度から銃撃できそうな武器であるが、CPUがパターン制御する動きは熟練者には読みやすい。


 ビームセイバーを構える晶は、くぐってみせると操縦桿を握る手に力を込める。


「サム、狙ってくれ!」


 もし斬れなくとも、晶はワイヤレスガンポッドを引き付け、サムに狙撃させるという手も採れる。


 隙はない。


 が、クォールは「ある」という。


「さぁ、行ってくれ! 僕の相棒たち!」



 ワイヤレスガンポッドは単純に晶を狙わなかったのだ。



 文字通り自由に飛翔し、あらゆる角度で晶をしてくる。


 そして6基のワイヤレスガンポッドが牽制するのは、晶だけではない。


 狙撃しようとするサム、援護体勢に入ろうとする弥紀にも向かう。


 正体はクォールが自らバラした。


「AIだよ!」


 CPUによるパターン制御ではなく、ワイヤレスガンポッドを改造し、いわばAIというパイロットをつけているのだ。


 惇は目を丸くした。


「そんな事が!?」


「できるんだ。AIの制御用ハードがいるけどね」


 ゲーム機にPCを組み合わせる事で可能となる。


 クォールの狙いはひとつ。


「だから、常に1対1だ!」



 終始、惇と一騎打ちするための装備である。



 惇も乗る。


「よし、やろうぜ!」


 クォールのLバトンに対し、Mメーサー・Vバイブレーション・Eエッジを抜いた。



 ***



 そんな中、高浜は一人、小難しい顔をしていた。


 惇とクォールの1対1は望ましい展開ではあり、誰も不満など口にしないだろうが、高浜たかはまには一つ引っかかる。


 ――この工夫に、少し申し訳ない。


 惇は腕を上げた。前戦で格上の悠を相手に一歩も引かなかず、決着の一撃を命中させる程になれている。


 しかし順調な成長といえば聞こえはいいが、クォールと比べたらどうか?


 ――物足りなくないか?



 クォールと惇には、差がある。



 自分が及ばなければ素直な気持ちで降参できる、という事を理想としているとしても、あっさり降参したのではクォールも立つ瀬があるまい。


 高浜は決めた。


「晶」


 妹を呼ぶ。


「何? これ、割と忙しいんだ」


 晶も勘づいていた。


「ワイヤレスガンポッド、抑えられるか?」


「いやぁ……」


 晶は一瞬、曖昧あいまいな声を出したが、続く言葉は噛み殺した。


 ――難しいよ。


 それはいえない。AIで制御されているワイヤレスガンポッドは、いわば戦闘機となって襲いかかってきている。CPUのパターン制御とは比べものにならない高機動性を見せているのだから、攻略が簡単な訳がない。


 しかし難しいからこそ、晶が口にする言葉は決まっている。


「やってみる」


 PvPの経験は晶も薄いが、ストーリーモードの戦闘機とは人一倍、戦ってきた。


 晶はビームセイバーを振り回しながら、遮二無二、クォールと惇の間に割り込んでいく。


「無粋なのはわかるんだけど――」


 少々、被弾した振動に耐えながら、晶はアクセルペダルを踏み込み、続いてビームセイバーでLバトンを牽制した。


「私の相手もしてくれないか? アクションパターンに動画解析を取り入れるようにいったのは、私なんだから」


 貸し借りといういい方の是非は兎も角、晶とてクォールが見せたいものがある相手のはず。


 クォールに「いいえ」があるはずもない。


「えェ!」


 Lバトンを引き、その反動で左のミドルキックを放つのも、アタックパターンに追加しているが故だ。


 往年のヒーローの動き。晶が見ていた番組ではないが、直感が正解を導く。


 ――これは防御じゃない! 回避だ!


 フットバーを蹴り、後退させる晶。


 晶が防御していれば、クォールは蹴りの反動でLバトンの攻撃に繋げていたのだろうが、 空振りしたのでは大きく体勢を崩してしまう。


 好機である。


 晶は一転、突進しようとするも、クォールは左手に持たせたショットガンを撃つ。


 だがその銃口は晶どころか、地面に向いていた。

 そこに晶は勝機を見れない。


 ――体勢を整えられた!


 ショットガンを発射した反動で機体の中立を保ったのだ。


 そして肩口を向けているのだから、クォールはノッカーに体当たりを命じる!


 晶はビームセイバーを眼前に構え、相を狙った。


 衝突。痛み分けだ。


「やる」


 晶も冷や汗ものである。


 ただしクォールに冷や汗をかかせるのは、晶ではなく――、


「衝突みたいな偶然は、読みにくいんだな!」


 惇だ。


 クォールの衝突という事態に、牽制しようと動いていたワイヤレスガンポッドの動きに生じた歪み。


 それを見逃さず、惇のパルスレーザー式突撃銃とMVEがワイヤレスガンポッドを2基、撃墜したのだった。AIを搭載しているワイヤレスガンポッドのスコアは、コンコルディアによって高く設定されている。


 2基が一気に消えると、弥紀みのりに余裕が生まれた。


「エレメンタルソング、広域発射する! 散って!」


 それは60秒の戦闘フェイズの終了間際、中断を告げる一発になる。

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