第25話「気持ちをぶつけられる場」
ワクワクする、と
――これを見せたい。
ノッカーと名付けたA級の
――塗装は変えてないけど、顔は変えた。やっぱり流行のデュアルアイより、この箱形ゴーグルがいいだろ。
無骨な外見を更に強調し、大輔はイメージしていた「海兵隊の古参兵」を浮かべやすいデザインになったと思う。
――武器は射撃にショットガン、切り札のリボルビングネイルも健在。それだけじゃない。
今は近接戦闘用にLバトン――俗にいうトンファーを持たせた。
――防御用の盾も。
盾は両肩に長方形のスクウェアバインダー。これは手持ちの盾に比べて可動範囲が狭く、盾としての取り回しは難しいのだが、この盾を前面に押し出すと、ショルダータックルが敢行できるという攻防一体のもの。
――そして、僕のとっておきが、このスクウェアバインダーに架けてるコレだ。
スクウェアバインダーにはラックも装備され、ワイヤレスガンポッドが左右に3つずつ。これは近距離、中距離、遠距離をカバーできる。一発一発の威力は低いが、6つのワイヤレスガンポッドが敵機の動きを牽制したら、ノッカーは的が複数であっても一機ずつ格闘戦で撃破する事もできる。
――この無骨さが好きで、ごつくごつくって考えて仕上げてきた愛機だ。
惇が機体をどう仕上げたかも知れたいし、この機化猟兵を見せたいという欲求が、心中にワクワクとしかいえない高潮をもたらす。
無骨な機体に、派手なビーム兵器に頼らない接近戦を主眼に置いた機化猟兵であるからこそノッカー――打撃する者とも読める名前をつけている。
――君のスプライトは、どうなってる?
その高潮を胸に、戦艦へノッカーを納める。こちらは機化猟兵に力を入れているため、提供されたまま弄っていない。僚機の3機はS級にCPUコントロールのため、晶やサムにとっては楽な相手なのだが、この一戦は勝ち負けに拘らない。
「相手に及ばないと思ったら、素直な気持ちで参ったっていえる」
Riot Fleetsの制作者が理想とする対戦だと思っているからこそ、大輔は今、言葉にして出した。
対戦回数も、被撃墜数も記録せず、記録されるのは勝利数と撃墜数だけにしてサレンダーを選択するためのハードルを下げているのは、「素直に降参できる」というスポーツマンシップや武道精神に通じる心を養うため……とまでは明言されていないが。
「よし」
大輔はヘルメットの上から自分の両頬を叩き、鷹司大輔からクォールへと変わる。
「クォール艦隊“フリーストライカー”出るぞ!」
ゲーム内へ戦艦が出撃していく。
***
対戦の舞台を、コンコルディアが告げる。
「フィールドは衛星上。機雷原なし。ターン制限15ターン」
重力の影響が低く、跳躍を使った三次元的機動がより簡単にできるステージだ。
惇は「よし」と力強く頷く。丁度、跳躍からの攻撃を練習してきたといったところだ。
「クォールさんに通じるかどうか、試してやる」
大輔と同じく、
そんな様子に、
「勝ち負けに拘らず、全力を出す。いいな、それは」
教師としての本音である。社会に出れば当たり前といわれ、そうでなくとも学校に通っている頃から「努力は努力、成果は成果。別の話」と世の中を斜めに見たような言葉を覚えやすい中、学生時代は努力する習慣を身につけさせる事が重要と考えている。
「こういう事ができるから、同好会活動も認められる」
高浜は教えたがらない。そのため職場での評価は「熱心ではない」と低くされるが、教えたがりの教師ほど酷い授業をする者はいない、と受け流している。
――とはいっても、ストレスはあるからな。
そのストレスを幾分かにも軽くしてくれるのが、まず楽しむという目標を掲げるゲーム同好会の活動だ。
――子供は、魅力的なら勉強する。
高浜が今まで通ってきたアニメやゲームも、決して中高生向けのディテールではなかったものは数え切れないが、それらのうち、ブームを起こしたものは全て魅力的だった。
ならばゲームを楽しむ事をメインテーマとした活動は、自然と勉強――努力に繋がる。
――何か実った時、それまで集めてきていた、きっと役に立つモノっていうのが一斉に集まって役立ってくれる事がある。それが努力が報われる瞬間だ。
小出しにされることの多いそれの一端が現れるはずだ、と思うと、高浜の顔にはどうしようもなく笑みが浮かんでしまう。
「行くか!」
キャプテン帽を手に取って、高浜は教え子4人に声をかける。
「俺は今回、防御しかしない。貝みたいに口を紡ぐからな」
クォールとデューン――大輔と惇の勝負のはずだ、といいはするのだが、妹の
「貝は、熱くなったら口を開くからねェ」
血こそ繋がらないが、兄の性格はよく知っている。
「まぁ、……多分、そうなる」
高浜の明るい表情と共に、乗艦が出撃する。
「まずは
一番手がクォールとの一戦を心待ちにしていた惇なのは当然だ。
「はい!」
惇の返事と共に射出されたスプライトを、クォールは笑みと共に視界に捉える。
「なるほど。武器を持ち替えただけか?」
クォールがゴブリンをノッカーと名付けたA級に仕上げてきたのに対し、武器を持ち替えた程度のスプライトで来る事を、馬鹿にしているとは思わない。
「腕を磨く方に、軸足を置いていたんだな」
そう判断できるのが、クォールという少年だ。
惇に続き、晶の
クォールの目は、惇と、そして晶に向けられ――、
「教えられた通り、アタックパターンに入れてきましたよ!」
クォールが早速、反応増幅装置のボタンを押し込む。弥紀がレジオンに搭載しているのと同じ、機体を出力アップさせるパワーインジェクターだ。
しかしノッカーは即座にホイールダッシュするのではなく、大きく足を広げ、四股のようなスタンスを取る。右手を開いて大きく開け、左手は下に構えて拳を握る。
――僕がアタックパターンに入れたのは、コレだ!
ダッシュは一瞬だけで、両足を揃えて踏み切ると、左手と右膝を突き出して跳躍。
――お祖父ちゃんと一緒に見てた、この必殺技!
反応増幅装置からもたらされる出力で、身体を捻りつつムーンサルトから――、
「
全てのブースターを後方へ向け、機化猟兵そのものを砲弾の如く全速力で叩き込む跳び蹴りだ。
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