第23話「楽しい時間は続くもの」

 世界中と繋がっているオンラインゲームで、プレーヤー同士が近所に住んでいたと判明する事は珍しい部類になるだろう。


 特に、似たような時期にゲームを始め、即興のコンビネーションで危機を乗り越えた経験を持つ二人が出会う確率など0に等しいはず。


 大輔だいすけじゅんはすぐに打ち解けた。


みね高の1年だったんだ」


「あぁ、この4月から」


「僕もだ」


 大輔は県内2位の県立高校に通っている。そんな大輔の声が上擦うわずっているのは、ファストフードで買った飲み物を手にフードコートに集まるなど未経験の出来事だからか。


 ――ゲーム同好会か。


 ソロ活動が主である大輔には、そういう集まりがどういう活動をしているのか想像がつかない。


 思うばかりで口数が少なくなるのは仕方がない中、惇の存在は助けになる。


「あの時は、本当に初めてオンに上がったばっかだったから、嬉しかった」


 会いたいと思っていた相手に会えたからか、惇は若干、早口になりながらまくし立てて話す。


「背中ばっかり狙おうとしてたのは、我ながら初心者だったなぁって思うけど」


 初心者を脱した程度でしかない今の惇ですら、ただ相手の背後を狙うのが不条理だったと思っていた。


 それは大輔も同じ。


「頭上が死角になるから、跳躍が有効っていわれてるね」


 回り込もうとする相手への対処に、後方へ跳躍する事を身に着けている。


 大輔が答えると、惇は「そうそう」と身を乗り出さんばかりに食いつく。


「死角になる事もそうだけど、降りてこようとする機化猟兵を狙うのも、難しいな」


 パルスレーザー式突撃銃をメインに選んだ今、跳躍からの射撃を高精度に行う練習をしている、と惇がいえば、大輔は跳躍の対策を練習していると返す。


「そのために僕はショットガンを使ってるよ。元々、散弾は水平発射するより、上へばらまいた方がいいんだ」


 抜け目がないとまではいえないが、大輔は少し得意そうに笑みを見せた。ショットガンを選んだのは、徹頭徹尾、接近戦を挑むためである。


「それに後ろに跳ぶと、お互いに相手の姿が見えるから」


 跳躍一本槍では行き詰まる。惇も当然の指摘だと頷く。


「けど、やれる事が増えると、できなかった事をやたらと思い出すよ」


 なら、いいものがあると弥紀みのりがスマートフォンを二人に示した。


「今も録画見られるよ」


 表示させるのは、Riot Fleetsの履歴である。


「配信用のデータね。感想戦みたいな事ができるの」


「へェ、見た事なかった」


 うなる惇だったが、唸ったのは最初だけで、すぐに苦笑いが浮かんでしまう。


「ここは一拍、待つべきだよなぁ」


 回避から反撃に転じるスプライトの姿に、惇は寧ろ焦りを感じ取ってしまう。事実、初めての事ばかりで焦っていたのも確かで、惇のいう通り、一拍でも待てば直撃させられるタイミングはあった。


「僕も、かなり拙いね。牽制してるつもりができてないから、空振りしてるよ」


 接近戦をメインに考えているというのに、大輔のゴブリンは近接戦闘で空振りしている。


 そして二人の戦闘から、初心者狩りとのチーム戦になると、自分たちの拙さからゲーム同好会のチーム力へと視点が移っていく。


「僕は、ここまでスピード出せないなぁ」


 晶の姿は、大輔の理想である。カタパルト加速とスーパーチャージャーによって、ミサイルと誤認させる程のスピードを誇るあきら熱風ねっぷう。一気に肉薄し、ビームセイバーを一閃させる姿は清々しいくらい。だが、そのスピードの中で敵機を両断するのは、大輔には無理だ。


「手動ですよね?」


 食いついてきた大輔に、晶はフッと口の端を吊り上げ、「割と簡単だよ」と片手だけで肩を竦めてみせる。


「居合いとか剣道の抜き打ちとか、そういうのの連続写真や動画があるだろう? それを変換して、アタックパターンに入れるのさ。タイミングは手動だけど、それこそ慣れ。練習さ」


 そんな晶の援護へ飛来するサムの狙撃も、理屈は同じ。


「狙撃も練習ですヨ」


 天性の才能といえば聞こえがいいのだが、そんなものを持ってる人間を、サムは知らない。バスケのシュートやドリブルでも、練習こそが精度を上げる。プロの名選手は並々ならない努力をした天才なのだろうが、そこまでのものを身に着ける世界にサムはいない。


「最終的に、そこに的がアルっていう勘が働き始めマスね」


 勘というと、天性のものと思われそうだが、勘の根底にあるのは経験だ。


 そして経験といえば、防御にこそいえる。


 初心者狩りの十字砲火の中へ強行突入してきた弥紀も、何も考えないのでは惇を庇う事はできなかった。


「コンセプトがハッキリしていくのも、そう。経験を積んでいくから、確立していく事になるから」


 弥紀が語るのは、どうすればやりたい事ができるのか、というもの、それもプレイし続ける事で分かっていく。


 その点、弥紀の機化猟兵・レジオンは、大輔からも分かるくらいコンセプトがハッキリしている。


「重装甲、アクティブバインダー、電磁バリアで防御を固めて、長距離攻撃ができる装備って、所謂、要塞型ですよね?」


 戦場のど真ん中に居座り、敵を引きつける役割である。分かってくれると、弥紀も「そうそう」と乗り出す。


「重装甲は、いざとなったらパージしてダメージコントロールもできるからね」


 その真価が発揮されたのが、前回の艦隊戦だった。


 三人の機化猟兵を纏めると――、晶は笑いながらいった。



「全員で初心者狩り絶対殺すマンな訳だ」



 庇い合える構成は、惇や大輔を守る事に役だった。


 大輔もそこは感謝する所である。


「お陰で、楽しかった。あの時は、特に」


 大輔が惇に礼をいえる状況こそ、市立峰高校ゲーム同好会の本懐だ。


 惇も同感だと頷く。


「楽しくなければゲームをする価値がないな」



 大輔――クォールとの共闘は楽しかった。



 そして楽しい時間は続く。


「また、対戦しないか?」


 惇は大輔をゲームに誘えるのだから。

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