第18話「艦隊機動」
艦隊戦をよくやっていた
――宇宙を舞台にしたて架空の世界であるから、本格的な海戦もないもんだが。
手軽で雰囲気だけ楽しめるのがいいと思う高浜は、少数派だ。
その高浜が選んだ
縦一列に戦艦を並べた場合、戦艦が受ける制約は大きい。
まず衝角。体当たりするように使用するものであるから、艦首に装備されている。縦に並んでいては、衝角が使えるのは先頭の一隻だけになってしまう。
次に対艦ミサイル。これも対空ミサイルは垂直発射されるのだが、戦艦に向ける大型ミサイルは艦首から水平発射するよう設定されている。
つまり艦砲、衝角、ミサイルのうち、まともに使えるのは艦砲だけになってしまう。
だからこそ
一目瞭然であるのは、惇からも分かる程。移動フェイズは、最大5分の思考時間の後、艦隊が実際に指示された航路で動いていく。身体に慣性を感じながら、
「……大丈夫なのかな?」
惇の声からも、滲み出る不安が顔を覗かせている。
――いっちゃえば、じゃんけんで相手はグーチョキパーを出せるけど、こっちはチョキしか出せない状況だろ?
覆しがたい不利を背負い込んでしまったのではないか、と思ってしまうが、そんな惇の背をサムが心持ち強く叩く。
「提督の決断は、間違いないデスよ。私たちの出番を確保するためデス」
サムは高浜を信頼している。
単縦陣が不利な点は、艦隊戦をメインでやってきた高浜が知らないはずがない。
それは妹である晶も同様だ。
「私もお兄ちゃんは大丈夫だと思ってる」
しかし晶が信用しているという言葉を出した途端に、高浜が設定した進路は全員の度肝を抜いた。
身体に感じている慣性が変化したのである。
前進から、横への転回だ。
高浜は、ここで進路を大きく変化させるよう指示していた。
「左反転180度!」
180度――完全に背を向ける。
これが会敵以後ならば逃走だと考えられるが、移動開始して間もない段階での反転は晶ですから驚きで目を丸くしてしまう。
「え……? どういう事?」
逃げる段階ではないし、後退してでも整えなければならない程、隊列が乱れている訳でもない。信じろといっていたサムも、慌てた様子で左右を見回している。
「提督……」
意図のない行動はしない高浜だと思っているが、それを覆す行動だ。
この反転を理論的に説明がつく者は、ゲーム同好会にはいない。
だがPoint blank艦隊では、その後退に説明をつけた。
文野だ。
「単縦陣で横陣に挑む愚がわかってるんだろう。前進しながら組み替える気だ」
だから後退しつつ、横陣に変えようとしているのだろう――文野はそう落とし込んだ。黒の短髪を掻き上げるような仕草と共に、高浜への
そこへメッセージが飛んでくる。
――文野さん。
――こんな奴、とっとと始末して帰りましょう。
2メートルに届こうかという長身に、生ゴムでも充填したのかと思う程の筋骨隆々としたアバターを使用している圷も、この艦隊戦は終わったと思っている。
文野は誰も見ていないのを承知で、
――ええ。そのつもりです。
次のターンで最大戦速まで増速させ、一気に決着をつけるつもりだ。
悠が基本戦術を告げる。
「形式が同一の艦艇は、相互援護を」
二つ目。
「全艦艇は旗艦に連動して動く」
三つ目。
「終始敵艦に艦首を向け、衝角を活かす」
徹底しろと告げる三つの方針は、戦艦の役目は火力と装甲にモノをいわせて戦闘の中心に居座る事。つまり機化猟兵のキャリアーではなく、拠点となるのだ。
文野も悠の戦術に
「前方の敵艦を撃つ。対艦ミサイルで接近し、最後は単縦陣で横っ腹を見せている艦艇を衝角で突く」
圷もPoint blank艦隊の艦艇に視線を一巡させ、
「鋼鉄の鎧に、最強のランスを具えた騎士だ!」
それに比べれば、高浜の艦隊などパンツ一丁で拳銃を構えているだけだといいたいくらいだろう。
ではパンツ一丁と嘲笑されている高浜は今、何を考えていたか?
「逃げてると思ってくれたか」
思わず口に出していう程、高浜は安堵していた。
Point blank艦隊へ完全に背を向けた形になった後、ややあってもう一度、高浜の艦隊は軌道を変える。
「左反転、180度!」
もう一度、反転し、Point blank艦隊へ向かう。
高浜が反転を二度もした意図は、逃走でも艦隊の再編でもない。
――Riot Fleetsでは加速も減速も素早くできん。
一度、移動フェイズで決定した行動は、次のターンまで修正が利かないからだ。
文野がPoint blank艦隊を増速させられるのは、どうしても次のターンからになる。
故に加速も減速も、先を読む事が必須だ。
高浜が二度、反転させた理由は――、
「助走距離は稼いだぞ!
高浜が旗艦に同乗している教え子たちに声をかけた。後退は、艦隊が最大戦速まで加速するためのもの。
――単縦陣は失敗だと思ってるんだろうが、そっちも失敗したぞ!
この段階で、高浜には仕掛けられるものがあった。
進路を決定した後は、移動フェイズが終わるまでオートで進行していくが、ひとつだけあるプレーヤーが操れる攻撃。
「砲撃戦だ」
艦砲による遠隔攻撃だけは、移動中にも可能だ。
「砲塔に行ってくれ。発射の指示は俺がする」
だが冒険は、もう一つ、あるのだが。
「進路は暗礁域。敵を撃退しろ! 敵右翼からだ!」
右翼を狙うには、Point blank艦隊の正面を横切って突っ切るしかない。
単縦陣を敷いている高浜の艦隊は、Point blank艦隊の真正面を横切ろうとすれば側面を晒す事になる。的は大きくなってしまう。
惇も想像できる惨状を招いてしまう予感がするが、高浜は大丈夫だともう一度、語気を強めた。
「信じろ! 真正面を横切って右翼へ向かう!」
艦橋から敵艦隊を見ている高浜には確信があった。
――横陣の中心にいるのが旗艦だろ? けど考えてるのは装甲厚と火力、後は戦闘時の機動力だけ。移動力を考えずに配置している。
高浜の確信は、勝機を見るに至る。
――なら移動フェイズは俺たちの勝ちだ。
その勝機が言葉にされた。
「艦隊の最大の武器は、戦闘フェイズの機動性じゃない。火力でもない。移動フェイズの速力だ。敵艦隊成は速力を考えてない。こっちが先に暗礁域から砲撃できる!」
高浜は声は徐々に大きくなっていく。それだけ自信があり、惇たちを従わせるためにも、どうしても語気が強まってしまう。
「距離と速力に注意しろ。暗礁域に入れば、地形効果も得られる!」
最大戦速を発揮している高浜の艦隊は、Point blank艦隊の右翼へ回り込んでいく。
そして回り込んでみれば、単縦陣は唯一の長所が活かされる瞬間が訪れるではないか!
「距離3000キープで撃て!」
全艦艇の
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