第17話「2本目、開始」

 決戦の設定をコンコルディアが告げる。


「フィールドは衛星軌道。暗礁域あり。ターン制限10ターン」


 これがメジャーな設定かどうかは、じゅんには分からない。ただ移動フェイズが最大で5分、戦闘フェイズが1回1分である事を考えると、移動時間も含め、1ターン7分程度で終わるのだけは分かる。


 見慣れない宇宙戦艦の艦橋で、惇は暗算した。


「フルで戦って、70分。1時間ちょっと、か」


 バトルロイヤルや対戦に比べると、かなりの長丁場である。


 アニメに出てくる宇宙戦艦の艦橋を模した場所に集まるゲーム同好会の面々は、今回も思い思いに設定した服装だった。


 あきらを始めとする機化猟兵のパイロットが着る宇宙用のパイロットスーツも、ツナギを思わせるゆったりとしたものから、レーシングスーツを思わせるピッチリしたものまで様々。


 高浜たかはまだけは将官をイメージした黒いジャケットに生成り色のスラックス、頭にはキャプテン帽を被っている。


 総指揮官である高浜がいう。


「まず艦隊の陣形を整える」


 今、ゲーム同好会の艦隊は、出航したてのバラバラ状態にある。これを整えなければ、バラバラのまま進んでは各個撃破されるのみ。


「1ターン目はそれで終わるから、前進して、会敵するのは大体……3ターン目くらいか」


 1ターンは陣形を整え、2ターン目から本格的な移動を開始し、目論見が上手く交わってくれれば3ターン目に互いの艦影が見える。10分から15分ほどかかる計算だが、今回は早く展開してくれる。


 位置関係を確認する高浜は、既に互いの位置が表示されているのを見た。


「狭い衛星軌道上だからか。衛星を挟んで反対側にいる」


 少しでも早く動け――高浜は艦船に指示を出していく。



 ***



 ゆうの陣営も、高浜の艦隊との位置関係は確認済みだ。こちらは3人ともがパイロットスーツ。身体のラインがくっきりでる色物的なデザインを選んでいるのは、挑発のためか。


 まず文野あやのが示す。


「電波誘導の信頼度が怪しいRiot Fleetsでは、横陣おうじんが基本」


 艦船を横一線に並べるにのは、艦砲、衝角、対艦ミサイルの全てが前方に配置されているからだ。


 人型の機動兵器が使われる理由が、誘導するよりも妨害する技術が発展しているというRiot Fleetsの設定に従えば、この艦隊戦は戦艦というよりも、戦列艦同士の戦いに近い。


 特に戦艦も機化猟兵きかりょうへい同様、生産し、カスタムする事が可能であるが、艦隊戦も艦砲より機化猟兵の格闘戦で着く事が多いのだから、戦艦に手を入れる者は少ない。


 大きく頷くのだから、戦艦も提供いているあくつも文野に賛成する。


「横陣こそ最善手」


 衝角による突入戦法だ。戦艦は主にキャリアーとして扱い、接近して機化猟兵の間合いを保つ事だけを考える。


 悠も完璧だと笑みを見せる。


「Point blank艦隊、出撃といきましょう」


 だが、その笑みは高浜艦隊を目にした途端、嘲りに変わってしまおが。


 悠が失笑してしまう高浜の陣形は――、



単縦陣たんじゅうじんだと!」



 縦一列に戦艦を並べたものだった。


 文野も思わずあざけりの笑みを浮かべる。


「考え得る中で、最も下らない手で来たな」


 ただ、その言葉を悠も前回、口にしている事は知らないようだが。


 それぞれの艦へ戻った悠と圷へメッセージを送る。


 ――名誉をかかげよ。


 まず返信があるのは悠。


 ――まったくする。


 そして圷。


 ――確かに、名誉を掲ぐ


 二人の返信を見て、文野は二人の艦へ敬礼した。


 ――凱旋を待て。


 砲火が交叉するまで、残り1ターン。

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