第12話「3度目の正直」

 ゆうは現実ならば奥歯が砕けるのではないかという程、強く歯を噛みしめた。


 ――直進!? バカなのか!


 だが回り込もうとするはずだと考えたのが油断だとは思っていない。


「素人が!」


 悠が抱いているのは、じゅんが素人故に無知をさらしている、という点のみ。


 惇も初心者だからできる無茶な行動である部分は存在する。あきらであれば、ワイヤレスガンポッドを最小限度、無力化し、狙撃は機動力を活かして回避しつつ得意な中、近距離戦を挑んだはずだ。


 今、惇が選んだのは、ワイヤレスガンポッドどころか狙撃すらも無視して突き進む事なのだから、無知から来る無謀といわれても仕方がない。


 だが惇の考えを端的に示している。



 悠が挑んできたのがチェスならば、惇はチェスなど指すつもりがない。



 障害をひとつひとつ攻略していくのがチェスだが、ことごとく無視している。


 しかし攻撃に移る時、惇はミスが顔を覗かせた。肉薄したブルーローズへ振るったのは、高浜が装備させていったMメーサー・Vバイブレーション・Eエッジではない。悠の顔を歪ませ、苛立ちを増させる攻撃は――、


「こいつ……! 銃で殴りかかるとか、馬鹿にしてんのか!」


 ブルーローズを強打したのは、スプライトが右手に持っているパルスレーザー式突撃銃だった。


 衝撃によるダメージは存在するが、鈍器ではない突撃銃で与えられるダメージなど無に等しい。馬鹿にされたととられても仕方のない攻撃であるが、原因は惇の焦りだ。


 ――やっちまった!


 惇はギリギリと歯を鳴らす。必殺の間合いだったはずが、攻撃手段を間違えたのでは撃墜はできない。


 そして衝撃はスプライトを失速させ、衛星上へ転落させていく。


 惇の手からコントロールが離れた一瞬を突き、悠が大型ビームライフルを構える。照射の悪影響は続いており、連射ができる状態ではなかったが、墜落していくスプライトへトリガを引かないという選択肢はなかった。


 頭上から狙われるだろうというのは惇にも予感がある。


「ッ」


 歯を食いしばり、機体を立て直そうと悪戦苦闘したのが、もう一度、マグレを呼んだ。


 スティックやペダルをむやみに動かした結果、スプライトは頭上から飛来するビームに対し、右手に持っていたパルスレーザー式突撃銃を掲げるような形で防御した。


 爆発とアラームが惇の顔を歪ませるが――、


「いや、無傷だ!」


 武装は失ったが、スプライトにレッドアラームは点いていない。


 悠にもHUDにcriticalの表示がないのだから、討ち漏らした事は明白だ。


「遊びは終わりだ!」


 ワイヤレスガンポッドを呼び戻し、背後からの援護を任せた悠は、ビームセイバーを抜いて襲いかかる。


 それに対し、パルスレーザー式突撃銃を失った惇も、今度ばかりは間違えずにMメーサー・Vバイブレーション・Eエッジを抜いた。


 そして次に起こす惇の行動は、マグレではない。


 ――下がれ!


 身動ぎ程度しかしないのも、計算故だ。


 頭上から振り下ろされてくるビームセイバーに対し、前面装甲を犠牲にしてブルーローズの側面に回り込む。


 ――ここだ、ここだった!


 その動きは、クォールが初心者狩りの機化猟兵を撃破した時をイメージしている。


 コックピットさえ健在ならば構わない、前面装甲ならばいくらでも削れとばかりに捨て身のステップを繰り出しながら、MVEを起動させた。メーサーによって真っ赤に染まった刀身を、眼前にあるブルーローズのコックピットに突き入れる。



 ――critical.



 撃破を告げるメッセージが表示された――。

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