第7話「コンビネーション」

 レーダに映る光点のスピードが増した事に、じゅんは目を剥かされた。


「!?」


 こちらはノーマルなのだから、カスタム済みの初心者狩りとはスピードが違って当たり前ではある。


 ――追いかけられてるぞ!


 だがこれを阻止しようと、あきら弥紀みのりが来てくれたのではなかったか。


 とはいえ五機も敵機がいたのだから、三機で抑えきれないのは仕方がない。


「くっそぉ!」


 毒突く惇は、不意に襲ってきた振動に顔を顰めさせられる。ゴブリンが肩を押さえてきて、立ち止まらせたからだ。


「何?」


 惇に対し、ゴブリンのパイロットは――、


「迎え撃とう」


 惇とは真逆の思考。反応増幅装置は数秒で効果を発揮しなくなるが、それでも相手に追いつかれると判断した。


「追いつかれたら、どうせ順番にやられる。迎え撃とう」


 腹をくくる時だと、その声は告げている。


 これが惇には効いた。


 高々、一戦しただけの相手であるが、互角に死闘を演じたが故に芽生えたシンパシーか。


「あぁ」


 惇も腹を括る。だが一言、訊ねた。


「名前、聞いてなかった」


 表示名を見れば済むのだが。


「クォール。そっちは?」


 無論、ゲームの登録名であって本名ではないが、十分だ。


「デューンだ」


 惇が登録名を告げたところで、二機は並び立つ位置へ変わる。


 まずクォールがショットガンを放つ。散弾は扇状に拡散してしまうため、距離が離れればダメージは激減する。それと引き替えに命中率は上がるが。


 ショットガンを撃つクォールがいう。


「挟み撃ちにしよう。僕は先に行く!」


「わかった!」


 一も二もなく飛びついた惇は、射撃したクォールとは対照的にビームライフルを放り投げた。


 ――あの大砲だ! 連発はできない!


 重砲は一門しかないのだから、クォールと惇を同時に攻撃する事はできないと踏んでの事である。


 ビームライフルを投げ捨てた手でビームセイバーを抜き、もう片方では盾を構えさせた。


 盾の内側で身を屈めるようにして構え……、


 ――よし!


 ホイールダッシュを仕掛ける。クォールのようにドリフトさせる技術はない。ただ前方へ全速力を傾けるのみ。


 初心者狩りは迷わなかった。


 ――スプライトは勝手につっこんでくる。こっちだ!


 重砲はホイールダッシュが遅れたクォールのゴブリンへ向く。


 クォールのスタートは、その砲撃寸前になっていた。


 重砲が轟音と共に砲弾を吐き出す光景に、クォールは歯軋りしながらフットバーを蹴るように操作する。


「ッ」


 歯を食いしばっているから気合いの声すら出せないが、ここでも急制動をかけて愛機をドリフトさせた。


 アラームが点灯する。ドリフトした事で回避できたのは、直撃する事だけ。掠めただけでも重砲の威力はダメージを加えてくる。致命傷一歩手前という状況に、クォールは歯を食いしばりながらも舌打ちした。


 ――こっちは軽装甲だからな!


 近距離戦を主眼にしている機体だけに、防御よりも回避に振っているからだ。


 ――まだ動ける!


 そう考えているクォールだが、背後で怒った爆発音は惇にも届く。


 ――クォールさん?


 クォールが撃破されたのかと思ってしまえば、足も鈍ろうというものか。


 だが惇はそれを押さえ込み、踏み込んだペダルと操縦桿を握る手は鈍らせない。


 眼前の初心者狩りは、反応増幅装置の効果が終了し、鈍っている。


「おお!」


 クォールとは対照的に、惇は雄叫びをあげた。構えた盾ごと体当たりする勢いで突っ込んでいく。


 衝撃が来る。正面衝突については、Riot Fleetsでも現実世界と似たような設定が存在する。現実では衝突時の衝撃は、より軽い方、より柔らかい方へ大きく響くものだ。Riot Fleetsでも装甲は衝撃を和らげる重要な数値である。


 盾が、その衝撃からスプライトを守った。


 そしてホバリングしている初心者狩りは、衝撃を吸収するためのアシストを地面から受けられない。


 大きく体勢を崩す初心者狩りに、惇は勝機を見いだした。


 ――クォールさん!


 初心者狩りを正面に捕らえつつも、惇は視界の隅でクォールのゴブリンを見つけている。


 ――もう一度だ!


 体勢を整えようとしている初心者狩りへ、惇はもう一度、盾での一撃を見舞った。相手は四肢をパージしているとはいえ、元は四足歩行だった重量級。惇のビームセイバーでは心許ない。


 盾で殴りつけ、そしてビームセイバーで鍔迫り合いに入る。


 初心者狩りは舐めるなといったかも知れない。


 その声は、一拍遅れてやったきたクォールが黙らせた。


 背後からコックピットへ狙いをつけたクォールは、右腕に仕込まれた格闘戦の切り札を発動させる。


 ――リボルビングネイル!


 前腕に装備された武器はネイル――釘と名付けられている通り使い捨て。炸薬を使い、螺旋を刻まれた射出装置によって加速される一撃は、至近距離での貫通力では恐るべき威力を見せる。


 二人のHUDに表示される文字――。



 critical.



 撃墜を意味している。


「ありがとう」


 その言葉は、クォールと惇の二人が同時にいってしまった。


「ハハハハ」


「ハハハハ」


 笑い出したのも同時だが、先に溜息を吐くような深呼吸をして居住まいを正したのはクォールの方。


「ありがとう。楽しかった」


 実力伯仲の二人が協力して危機を乗り切ったのだから。


 惇も「俺も」といい、


「もう時間かな」


 バトルロイヤルが終了する条件は、最後の一機になる事と、タイムアップの二つだ。


 時間を確認する惇。


「一対一の方は――」


 最後の一機には、残り時間的にもなれそうにない。 


「多分、またマッチングするよ。その時に」


 クォールが片手を上げると、丁度、タイムアップを告げるアラームがコックピットで鳴った。


 帰還の演出が入る中、惇はもう一度、いう。


「楽しかった。本当に」


 対人戦は苦手だが、クォールとは対戦も協力も楽しかった。

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