第6話「番長チームの奮戦」

「さて……」


 着地し、今度はビームライフルを構えるが、あきらの視界には高地から飛び降り、間合いから逃れる一団しか映らない。


 逃げながら、初心者狩りは鼻で笑う。


「ハッ、初心者狩りをしてはならないなんて、そんなルール、ありましたっけ?」


 違反というならば禁止するようコンコルディアを調整すればいいだけの話だというのだろう。バトルロイヤルでも他プレーヤーとの通信手段が存在する事や、初心者を完封できる地形が存在するのだから、それを利用しているに過ぎない、と。


 初心者狩りは嘲笑に載せて晶へぶつける。


「勝手にルールを作らないで貰えますかァ?」


 たかが一機という嘲笑が、そんな言葉を投げかけさせているのだろうが、今、カッ飛んできたのは一機だが、じゅんの救援に来ているのは一機ではない。


 クモの子を散らすように逃げていく敵機だが、そのスピードはまちまちで、特に狙撃用の集束性高輝度ビームライフルを使っているサムにとっては有り難い的だ。


「そっちがチームでやってるのに、こっちがチームになってないと思うの、都合良すぎませんかネ?」


 特に円盤のような電子戦用装備を載せている敵機は加速に難を抱える為、恰好の的といえる。


 飛来した閃光が電子戦用の円盤を貫く。サムと敵機の双方に告げられた機体の破損は――、


「Yes! レドーム破損!」


 サムの声が弾む。これでEMCは使用できなくなった。


 レーダに感が戻る。


 だが初心者狩りチームは既に散開済み。生き返ったレーダで、晶の熱風とサムのアルビオンの位置は確認できる。


 そして晶が熱風に装備させている武器を目視した初心者狩りの一人がいう。


「ビームライフルとビームセイバーしかない。高低差を利用しろ」


 ビームライフルは基本的な武器であるから、長所も短所も明白だ。弾速は速いが、光線であるから曲射ができない。攻撃する為には、敵機の前に自機をさらす必要がある。


 視野は限定されるが低地への移動が正解だ、と初心者狩りチームは散っていく。


 そして障害物越しでも攻撃する手段はある。


 ――よし。


 砲撃専用に四足の機化猟兵に乗る初心者狩りは、その砲口を空へ。実体弾だからこそできる曲射――頭上から散弾を降らせるつもりだ。


 狙うのは熱風ではなく、熱風とアルビオンの登場に見取れている惇のスプライト。


 ――お前等は守り切れなかった!


 砲弾は、惇の撃墜を晶に見せつけるために放たれた。轟音と共に放たれる砲弾は弾体に炸薬が仕込まれており、下降のタイミングで爆裂する。


 飛来する弾片は文字通りの火線であるが、ここで最後の一機が追いつく。外套がいとうを着込んでいるかのような怒り肩のシルエットを持っているのは、弥紀みのりの愛機・レジオン。


「間に合った!」


 弥紀は盾となるつもりでレジオンを火線とスプライトの間にねじ込んむ。


 一回り大きいフレームのレジオンは、確かにスプライトの盾になる。文字通り身代わりであると、初心者狩りはレーダを見つめて笑うが。


「はッ!」


 直撃した事を示すインジケータがHUDに表示された。スプライトは逃したが、割り込んできたレジオンは撃破か大破したはずだ、と笑みを強められる表示である。


 しかし現実は、撃破されていないからこそ弥紀の声が聞こえる。


「慌てすぎでしょ」


 レジオンは健在。


「アクティブバインダーと電磁バリアって、便利な装備もあってね」


 四角いシルエットを形作っていた外套は、トンボの翅のように広がって盾となった。


 重くなり、また機動の妨げにもなる為、中、近距離戦が主であるRiot Fleetsでは使われる事が珍しい装備――自動的に動き、作動するバリアと盾をアクティブバインダーという。


 そして防ぎきったならば自分の番だとコンソールボードに指を滑らせる。


「ビット射出」


 アクティブバインダーの隙間から上空へと射出されるビット。工具のドライバービットを思わせる形をしているが故に、その名称で呼ばれる装置の役割は二つ。


 一つはレジオンのコックピットへ敵機の位置情報を送信する事。


 そしてもう一つは――、


「エレメンタルソング、発射!」


 弥紀の引いたトリガーは、アクティブバインダーの先端からビームを迸らせた。


 曲射できないビームだが、唯一、例外がある。



 ビットに電磁バリアを張らせ、故意に屈折させた場合だ。



 今度は初心者狩りチームが頭上からの攻撃を受ける事になる。


「くそったれ!」


 毒突きながら一斉に回避行動へと移るが、ビームの回避ばかりに気を取られれば、晶に狙われてしまう。


「うちの若い子に手を出さず、私に来ればよかったんだよ」


 熱風の装備はビームライフルとビームセイバーだけなのだから、取り囲めば良かったのだ、と晶は鼻を鳴らした。


 鼻を鳴らし、自分への警戒が薄い一機へ躍りかかる。


 斬る。


 そして撃つ。


 そこで慌てふためいた初心者狩りの一機が上空へ逃げようとするが、今となっては上空こそ最も逃げられる可能性が低い。サムのアルビオンは狙撃する体勢を維持している。


「大尉を取り囲んでも、私が撃ちますけどネ」


 集束性高輝度ビームは、飛び上がった機化猟兵のコックピットを撃ち抜いていた。


 その光景に惇は思う。


 ――すげェ。


 自分が取り囲まれていたのは、ほんの数秒前の事だ。それが晶の飛来から一気に流れが変わってしまっている。


 ――チームとしての練度の差?


 それもあるだろうが、晶はこういう。


「初心者狩りに特化してるからだよ」


 初心者でないプレーヤーが、それもチームを組んで襲いかかってくると崩れてしまうのは道理というもの。


 それに見とれている惇のスプライトの肩を、ゴブリンが叩いた。


「離脱しよう。邪魔になる」


 チーム戦の様相を呈してきた戦場で、この二機はノイズ同然である。有利にも不利にもなる切っ掛けになってしまう前に、この鉄火場から逃げるのが、晶たちへ出せる最大の援護だ。


「あぁ」


 ゴブリンと連れ立ち、惇も離脱行動へ移る。


 それを見る目が一対。


「逃がすかよ!」


 吐き捨てたのは、砲撃を加えていた四足の機化猟兵を駆る初心者狩りプレーヤーだ。砲撃という役割のため、レーダを強化しているのが活きている。


 プレーヤーが拳を叩きつけるようにしてコンソールボードを操作した。


 ――機動変形!


 機化猟兵の装甲で炸薬が爆裂していく。見慣れぬ者が見れば自爆かとも思うかも知れまいが、違い。


 炸薬は四肢のパージに使われた。


 重砲を扱う鈍重な四足ではなく、機動力に重点を置く形態への変形である。四肢をパージ、武装を重砲一門にした事で、ホバリングでの高速移動を可能にする形態だ。


 ――極めつけだ!


 初心者狩りはコンソールボードに一つある、カバー付きの赤いボタンを押し込む。


 スプライトとゴブリンの追撃に入った機化猟兵の背に灯るブースタ炎が激しさを増す。


 ――反応増幅装置! お前等の番長と同じ仕掛けだ!


 熱風を音速まで引き上げた非常戦闘用装備の一種である。その効果は数秒に過ぎないが、推力を六割増しするという代物だ。


 熱風のようにカタパルト射出の推力が上乗せされていないため、音速に達する事はできないが、ほぼノーマルのスプライトとゴブリンを追撃するには十分だ。


 ――お前等だけは墜としていく!


 初志貫徹といえば聞こえはいいが、初心者狩りの意地である。

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