第2章「ゲーム同好会の実力」

第3話「対人戦への道筋」

 Riot Fleetsの世界でメカ兵器は機化猟兵きかりょうへいと名付けられている。ロボット兵器ではなくメカというのが制作者の拘りで、自律行動が取れず操縦する必要があるのだから、ロボットの定義を満たしていないからだ、という。


 戦艦同士の砲撃戦もあるが、ゲームの戦闘は機化猟兵を中心に行われるのだから、惇の練習は機化猟兵の操縦からスタートする。


 デザインや設計ができるシステムであるが、初心者のじゅんが駆るのは、カスタムもチューニングもされていないノーマル機。


 外見は、よくいえば無骨だが、「素っ気ない」が相応しいだろう。主にグレーで、関節部分だけダークブルーに塗り分けられた外見は、何も手を入れられていない事を感じさせる。


 妖精を意味するスプライトという名前がつけられている以上、色は兎も角、曲線で構成された装甲面は流麗と感じさせられるデザインは秀逸だ。ただ改造していく事を前提としているゲームであるから、無改造の機体は周囲を飛ぶあきらやサムの機体と比べると没個性的というか、垢抜けない印象は残ってしまうが。


 惇が駆るスプライトの隣を飛ぶのは、同じく航空機を思わせる曲面で構成された装甲を持つ晶の機化猟兵「熱風」である。白を基調に、肩や二の腕、脹ら脛に深緋こきあけ色のラインを入れた装甲は、その名の通り。


 そこ熱風から晶がいう。


「この前と同じ、敵機が飛ぶベクトルと射撃のベクトルが一致したら命中するんだ」


 ゲーム同好会のメンバーとの練習に、惇が選んだのは対戦ではなく、ストーリーモードでの協力プレイだった。惇自身が対人戦に向かないからでもあるし、会長の晶も同意見だったからでもある。


 ――対人戦は私も苦手だし、ありがたいよ。


 ストーリーモードでも操作の基本は身につく。


 今はおさらいだ、と晶は繰り返す。


「敵の動きに自分も合わせそうになるけど、こらえるんだよ」


 なまじ前後左右にダッシュできる人型だからこそ起こる弊害だ。相手が横に逃げたからと自分も横へ行ってしまえば、射撃は全て敵機の後方へ流れてしまう事になる。見越し射撃は高等技術である。


 基本は敵機が横へ動いたら自分は前進して振り向かせる事――惇も「はい!」と声を張り上げるのだが……、


「ッ!」


 何しろ反射的な事だけに敵と別の方向へ走ろうとすると一拍、どうしても遅れてしまう。


 遅れは停止。そしてCPUは停止した機体を優先的に狙ってくる。


 だが惇を撃たせない為の晶だ。


「ええい、うるさいね! 死ね!」


 悪態を吐きながら、射撃体勢に入った敵機を粉砕していく。


 一機目は晶が撃つが、二機目は弥紀みのりの駆るレジオンが狙った。


「会長、あんまり汚い日本語を使わない方がいいでしょ。サムが変な日本語を覚えて帰ったらダメだし」


 藍色を基調として関節部分に白を配色している弥紀のレジオンは地味だが、攻撃は派手の一言。白と深緋色という鮮やかなコントラストの熱風とは対照的なのは色だけではない。


 肩にマウントされている大砲が火を噴き、実体弾ならではの爆発は、威嚇するような轟音を伴う。


 その轟音によって照らされたサムの機体は、銀色一色の機体でニケという。ヒーロー然とした機体であるが、肩に描かれているマークが紫色のブタというのはご愛敬か。


「それなら、ダイジョーブだよ。ミノリ」


 三機目に狙いをつけたサムはハハハと笑い、「綺麗な日本語を使えば良いんだね」と戯けて、


「賑やかな所、大変、申し訳ございませんが、ご逝去なさっていただけませんか?」


 言葉と共に放たれる一際、輝くビームは、狙撃用の集束性高輝度ビームライフルによるものだ。


 あっという間に三機を撃墜するコンビネーションは、素人から初心者へ進んだ惇の目を奪う程。


「すげ……」


 惇が口にしたのは呟き程度でしかなかった。だが晶は、呟きからでも察する。


「そうか、サム。次、真っ直ぐ狙撃!」


 主語が省略され、抽象的な指示でしかなかったのだが、サムもまた洞察する力がある。


「OK、大尉!」


 晶が何をいわんとし、サムが何をしようとしているか?


 惇が敵機へ攻撃を仕掛けると、CPUはまた同じように惇から見て右へと逃げる。


 惇の意識は反射的に右へ行こう――とした所へ、晶の指示が飛ぶ。


「行くよ!」


 晶の声と、そしてサムが放ったビームが惇の意識を前方へ向けた!


「ッ!」


 惇は倒そうとしていた操縦桿を保持し、晶とサムに続いて前方へ走る。


 ――行ける!


 垂直に動いたからこそ見える敵機の背中。


 そこへ惇はビームを叩き込んだ。撃墜したエフェクトが見えると、惇の口元にには笑みが。


 笑みは晶も同じで、


「いいね。その調子だよ」


 軽く小突くように、熱風の拳がスプライトの胸を打った。


 ただ見上げている弥紀が少しあおるような口調になるのは、いとこ同士という間柄故か。


「一人でできるようになったらねェ」


 ただ晶は「いいさ」と戯けるように笑う。


「協力プレイ、いいじゃないか。私はこっちの方が好きだよ」


 かばう訳ではなく、晶の素直な言葉である。だから惇にも届く。


「確かに、何か頭から変な汁が出そうな感じでした」


 惇は初心者脱却へ向け、順調に成長中だ。


 ただストーリーモードの協力プレイだけでは、このゲームは勿体ない。


 そこは晶も思う。


 だからいった。


「もう少し練習したら、PvPだね」


 オンラインに繋ぎ、バトルロイヤル形式のゲームに入る。協力プレイが好きで、対人戦はそこまででもない晶だが、対人戦だからこそ見つかる者があるのも知っているからだ。


「オンラインには、仲間も見つけられるよ」

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