第49話 絶体絶命と騎士の友人
(うそ……)
剣を腰に収め、臆することなくドラゴンに近づいていくジャドールに気が気でなかった。
だけど、少しでも油断をしたら、今必死で抑え込んでいるドラゴンがまた襲いかかってくる恐怖しかなく、わたしは踏ん張り続ける。
楽しそうな彼の姿は取り憑かれたのかとさえも思えてしまったほどだ。挙げ句、
「俺だ、ジャドールだ」
などと話しかけたのだ。
「これでわかるか?」
再び剣を抜き、荒れ狂うドラゴンの前で構える。
(ジャドール……)
呼吸を止めてその光景を眺めていると、一瞬だけ、不思議な空気が流れた。
ジャドールを前にしたドラゴンが動きを止めたのだ。
「ぐおおおおおおおおお!!」
とはいえ、そう思ったのも束の間で、先に沈黙を破ったドラゴンが目にも止まらぬ勢いでつるを引きちぎったところだった。
「ジャドール!!」
喉が張り裂けそうな声を出したときには遅かった。
すさまじい突風が吹き荒れ、新しいつるが伸びてきた時には怒涛のごとく迫ってきた爪先がジャドールの頬をかすめたところたった。
動かなかったのは、動いてしまったらそれだけではすまないと本能が悟っていたからだ。
胸のあたりがひくひくしてきて、今にも泣いてしまいそうだったのを必死に堪える。
「ジャ……」
驚いたことに次の瞬間、大きな体を丸くしたドラゴンが彼の胸元に頭を擦り寄せたのが目に入った。
「仲間とはぐれたのか? ここはおまえのいるところじゃないだろ」
信じられない光景とその言葉を見守ると、ジャドールの優しい声にドラゴンはゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「魔女様、大丈夫です」
彼はこちらに視線を向け、いつものように頬を緩めた。
わたしは力を緩められない。
緩めたら大きな声で泣き喚いてしまいそうだった。唇が震えて声さえも出ない。
(ど……)
今にも腰が抜けそうなのに、懸命に立ち続けている。
(ど、どうして……)
そんなわたしに、ゆっくりと彼は近づいてくる。ドラゴンの頭を撫で、何かを告げてから。
「あなたにご紹介したかった、俺のトレーニング相手です」
変わらぬ彼を目の前にしたら、目の周りがじわじわと熱くなってきた。
「魔女様、助けてくださってありがとうございました」
気持ちとは裏腹に勝手に流れ出した涙が頬を伝うのをそっと拭ってくれる。
「あなたがいなかったら、みんな大怪我をしていたかもしれません」
「ゔっ……」
情けない。
だから守ろうなどと思われてしまうのだとわかっているのに、声を出したら感情いっぱい喚いてしまいそうで唇を必死で引き結ぶ。
そうするとまた、とめどなく涙はあふれてくるのだ。
「ご心配をおかけしてすみません」
言葉を聞き終えないうちに、わたしは彼の胸に飛び込んでいた。
バカだなって思うけど、急に彼を失ってしまう気がしてとても怖かった。
怖くて怖くて、彼の背をつかむ手を離すことができなかった。
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