第48話 魔女と騎士とドラゴンの戦い

「異空間?」


「そうです。我々の住んでいる森と同じです。誰にも知られていないのに、実際にはそこは存在している……そんな場所です」


 一斉にみんなの視線を集めてしまい、胸の奥がぎゅっとなりながらも必死に的確な言葉を探す。


「すごい、そんなことまでわかるんですか?」


 突然大きな声で乗り出されてしまい、びっくりしてジャドールの後ろに隠れてしまう。


「わたしにここまでのことはできませんけど、魔女の使用した力はわかります」


「えっ……」


「祖母と同じくらい強い魔力を感じます」


 間違いない。


 おばあちゃんと同じ力を感じる。


 使うことはできなくたって感じることはできるのだ。


(おばあちゃん……)


 四年間、わたしが城を離れてすぐからずっと会えていないけど、わたしが今、こうして他の魔力に触れていることを知ったら、どう思うのだろうか。


「この力は悪いものではありません。むしろ、ここに住む人間に危害を加えないよう……」


 言い終わる前に突然後ろから大きな音がして、茂みの中から鋭い爪が飛び出した。


(えっ……)


 とっさにわたしを庇ったジャドールはそのまま剣を構える。


 ハルクの声に合わせ、その場にいた騎士たちが戦闘態勢に入る。


 ドラゴンだ。


 金色の目をして牙を剥いた生き物が現れる。


 鋭い爪がキラリと光る。


 みなが息を呑んだのがわかる。


 情けなくもわたしは足が動かなくなった。油断をしたら腰が抜けてしまいそうだ。


 後方にいた騎士たちが一斉に矢を放つ。


 ドラゴンに命中するものの、あまり効果はなさそうに見えた。


(こ、こわい……)


 全身がガクガクと大きく震える。


 ジャドールの力強い背中を見つめながらぐっと瞳を閉じる。


 あちこちから悲鳴にも思える声が上がり始める。


(大丈夫……大丈夫だから……)


 記憶の限り、覚えている呪文を口ずさむ。


(大丈夫……)


 自信がないなんて言ってられない。


 少しずつ言葉を音に乗せ始める。


(おばあちゃん……助けて……)


 声を発し始めたらだんだん回りの音が聞こえなくなり、すべての景色が色を失い、ドラゴンだけが鮮明に見えるようになった。


 徐々にゆっくり見えてくるのが不思議だ。


(止めて……)


 矢を構えた騎士に向かってドラゴンの口から火が放出される。


(止めて……)


 目に見えない何かに声をかけている気分だった。


 徐々に言葉の先に重みが膨らんでいく。


 うまくいく。


 不思議とそんな確信はあった。


 光が手のひらに宿っていく。


 しゅっと一気に後ろから何かが伸びてくる音が聞こえた。


(お願い、助けて……)


 思ったと同時に周りの木からつるが伸び、ドラゴンに巻き付いたのが見えた。


「今のうちに逃げてください!」


 自分でも驚くほど大きな声が出た。


 身動きが取れなくなって必死に炎を吐き続けるドラゴンの姿とわっと逃げる騎士の姿が見えた。


 ドラゴンがあまりにも暴れるため、今にもつるは引きちぎれそうにも見える。


 取り押さえようとする騎士たちも近づくことができず、ただただその様子を眺めている。


「矢をはな……」


「待ってくれ!」


 指示を出そうとするハルクを制し、ジャドールが前に出た。


(え?)


「……おまえ」


 彼の明るい瞳にドラゴンが映っていた。


「ジャドール?」


 身動きが取れない状態だというのに、前に一歩踏み出したジャドールの元に駆け寄ってしまいそうだった。


「大丈夫です。ちょっと近づきますので魔女様は下がっていてください」


「えっ、隊長! ちょっ……」


「危ないです!」


 誰もが心配になって見守る中、ジャドールだけが懐かしそうにドラゴンの前で優しい声を出した。


「……久しぶりだな」

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