第47話 守られるだけの魔女じゃない

「モフモフ、何かあったら魔女様だけでも乗せて全力で逃げてくれ」


「ジャドール……あなたはまた」


 どこまでも心配性の彼はモフモフに向かって何度も何度も言い聞かせるように同じ言葉を繰り返し続けた。


「わかってください。大切な人を守れないような男にはなりたくない。……すみません」


 いい加減にしてくれと言いかけたとき、自身でも気がついたのか、彼は素直に頭を下げた。


「第三王子に言われたことがあまりにも的を得ていて、ムキになってしまいました」


「余裕のないあなたは初めてです」


「……そうですね」


 懐かしい仲間たちと再会したからか、今日の彼はいつもふたりで暮らしている時に見せることのない顔をしていて、新鮮で興味深くはあった。


「わたしは、完璧でないあなたも好きですよ。むしろそっちの方がいいです」


「えっ?」


「人間らしくて親しみがわきます。いつもあなたは完璧で隙がなさすぎるんです」


 可能であれば、わたしにもその顔を見せてくれたらいいのにとさえ思う。


「す、好きって……」


「ひ、人としてってことですよ!」


「それでもいいです。もう一度言ってください」


 な、何を言っているのか。


「もっ、もう言いません!」


「ええ、どうして!」


「どうしてもです!」


(なっ……)


 どうしてこうも二人に戻るとすぐ緊張感をなくすのだろうか。


 さっきまでのジャドールとは別人のようにいつもの彼に戻ってしまった。


「正直なところ、俺は他人はどうでもいいんです。あなたさえ安全な場所で無事で快適に過ごしてくれたら……」


「黙ってください」


「でっ、では、他の騎士たちに今の現状を確認しにいきます。……行き……ますよね?」


「もちろんです。連れて行ってください」


 ここまできたら意地でもついていってやる。ただ守られているだけの魔女だなんて思われてたまるものですか。


 大きなため息をついたジャドールがしぶしぶ連れて行ってくれたのは先ほどとはまた違う騎士たちのもとだった。


 村の人たちは誰もいない。


 避難をしているのか不気味なほどに静かだ。


 ところどころに嫌な気を感じる。


(これは……)


 ドラゴン騒ぎは、もしかしたらただドラゴンが現れただけのものではないかもしれない。


 わたしにできることは少ないけど、いくつか呪文は覚えている。使ったことはないけど、できないなんて言ってられない。


 何度か懐かしい言葉を口ずさみながらジャドールに置いていかれないようあとに続く。


「ハルク!」


「隊長!」


 ジャドールが声をかけた先で、まわりの騎士たちに指示を出している男性が振り返る。


 明るい金色の髪が印象的な男性だ。


「ここでの隊長はおまえだろう。状況を教えてほしい」


 はい!と声を張り上げ、ハルクと名乗る男は表情を一切崩すことなく淡々と今までの様子を告げ始める。


 彼のことはずいぶん信頼しているのか、いつの間にかジャドールはまた騎士の顔に戻って誇らしげな表情を浮かべていた。


「いつどこから現れるかわからないのは厄介だな。誰かに操られていると思うか?」


「人の手で作られたものであることは間違いないでしょう。ここは結界が張りづらいです。なにか、他の力が絡んでいる気がしてなりません」


 騎士の張る結界では弱いというのか。


「術が発動しています」


 言うべきか悩んだが、ことは一刻を争いそうだ。


 両手を掲げると、人ならぬ力を感じた。


「ここは、異空間です」


 口にしたら、もうそうだとしか思えなかった。

 




 

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