第39話 魔女に与えられた選択肢

「ど、どうして……」


 みんなが離れていく。


「わ、わたしが嫌になって?」


 他の人達のように。


「そんなわけがない」


 リタの存在が、とても遠くに見えた。


「フローラ、おまえはわたしにとっても大切な存在だ。だが、ここは見張りの騎士以外は立ち入り禁止のババアの力で管理をされた場所だ。満月の日だけはこちらの力も強くなるからババアの目を盗んで来れていたが、事情が変わり始めた」


「えっ……」


 ハッとして見上げると、半分の月が夜の闇を照らしていた。


「い、いやだ……」


 い、いやだいやだいやだ。


「ひとりにしないで……」


「なりたくても、もうなれないだろう」


 リタは面白そうに前足で眠り続けるジャドールを差す。


「気持ちの悪い男ではあるが、その男ならおまえを任せられると思うんだ」


 顔だけはいい、と黒猫はたのしそうだ。


「で、でもこの人は……」


「それならば、おまえもともにわたしとここから抜けるか?」


「えっ……」


 想像もしなかった言葉に、驚く。


 リタは一度だってそんなことを言ってくれたことはなかったのに。


「わたしのあとについてババアの力が及ばないところまで行けば、一気に逃げ切れる」


「………」


「選べ、フローラ。わたしとともに逃げるか、変わらずずっとここに留まるか」


(ひどい……)


 泣きそうになる。


 リタはフローラの答えをわかった状態でこの選択肢を持ちかけてきたのだ。


(今のわたしに、逃げる選択肢はないというのに)


 そばで眠るジャドールに視線を落とし、考える。そして、ある違和感に気づいた。


「ジャドール……?」


 ジャドールは寝息ひとつ立てずに静かに眠っていた。


 まるで、魂が抜けたように。


「ジャドール!?」


「その男は息をしていない」


「えっ?」


「三日後には目を覚ますだろう。だが、その男に異変があったらすぐに王家のやつらが押し寄せてくるだろう。タイムリミットは明日の夕方、といったところだろうか。それまでにこの男を目覚めさせるか、もしくは……」


「ど、どうして……こんなことを……」


 信じられない。


「おまえに選ばせてやろうと思ってな」


 冷たくなったジャドールの指先を握りしめ、リタを見つめる。


 逆光でその顔はどんな表情をして、何を考えているのかわからない。


「フローラ、おまえももう十五歳だ。自分の未来を自分で選ぶんだ」


「……い、今のわたしの魔力では、何もしてあげられないわ」


 逃げることも、彼を助けることも。


 わたしは中途半端な魔女なのだ。


「ここに残ることを選ぶというのか」


 わかっていて、リタは再び口角をあげた。

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