第24話 魅惑的な女性と現実

「欲しいものがあったらいっとくれ」


 奥の方で小さなおばあさんが棚の間から顔を出してそう言ってくれた。


「あ……ありがとうございます」


 これとこれはありますか?と事前にまとめていたメモを見せると、豪快にカウンターに散らばっていた紙や小物を床に払い除け、そのまま考える間もなくあちこちに歩き回り、きっとお目当てであろうものをそこに並べた。


「あんた、魔女かい?」


「あ……えっと……お、お使いで……」


 どう言えばいいのか考えていなかった。


 ここで魔女だと明かして怖がられないか。


 考えて答えたらわざとらしい間が生まれた。


「そうかい」


 きっと気づいたに違いないが、おばあさんは気にする様子もなく、片手に準備したそろばんをはじき出す。


「あっ……ちょ、ちょっと待ってくださいね。すぐ戻ります」


 お金を持っていないどころか、買い物すら自分ひとりでしたことがないことを今さらながらに思い出したからだ。


 欲しいものがあればすぐに言って欲しいと彼は言ってくれていたけど、あれは彼が一生懸命勤めを果たし、得たお給金であることは知っている。


 あとで返すにしても相場も分からず、まずは相談をする必要があるとおばあさんにまた来ることを伝えて彼のもとへ向かった。


「え……」


 戸口の前で待ってくれていたはずの彼は、この街の女性たちと思われる人たちに囲まれていた。


 色鮮やかで露出の多い服装は彼女たちの豊満な見た目をより一層華やかに見せた。シャラシャラと衣装についた装飾が揺れる。


 囲まれても触れられても彼は焦ることなく笑顔を見せる。


(ああ……)


 わかってはいたのに、一気に遠い距離を感じてしまった。


(そりゃ、そうよね……)


 あんなにも魅力あふれた人たちのお相手だって問題なくこなせる人だ。


 わたしのような貧相な見た目の人間を相手にすることくらい造作もないことだろう。


 見た目を気にすることなんてなかったけど、最近は鏡の前に立つようになったからよくわかる。


 青白い肌にほっそりと痩せた手足。


 膨らむべくところもほとんど凹凸を感じさせず、下手したら子どもと間違えられることだったあるだろう。それでも……


「ま……」


 それでもわたしの心はもう子供ではない。


 わたしを見つけ、珍しく慌てた様子を見せるのも彼女たちの前でわたしの名を呼ぶことができなかった彼の様子に胸をズキズキさせることになった。


「ご、ご一緒されるのなら、わたしのことはお気になさらず……あ、あちらで待っていますから」


 とだけ呆然としながらも言えた自分を褒めたい。


 慣れた手つきで彼女たちに触れ、愛を囁く彼の様子を一瞬思い浮かべてしまって、うっとなり、思考回路が停止してしまった。


「あ、あなたもせっかく街に来たのです。は、羽目を外してください」


「じょっ、冗談じゃありません。あなたが最優先事項です!」


 魔力でそんな風に言わせても虚しいだけだ。


「ごめんなさい。わたしのせいで、自由にできませんね」


「最優先すべきは、あなたです」


 何と言われようと彼の言葉はどんどん耳の奥へと消えていくばかりだった。

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