第23話 魔女と騎士と知らない街

 見るものすべてに圧倒された。


 森に引っ越す前も王宮での暮らししかしたことがなかったため、こんなにも多くの人が行き交った活気あふれる街を見たことがなかった。


 本では読んだことがあったけど、実際にお店というものを見たことがなかった。


 知識と実際に見るのとでは全然違う。


「魔女様〜、気に入ってもらえましたか?」


 俺も初めてですけど、と辺りを見渡しながら彼は何かを探しているようだった。


「まずは魔女様の欲しいものを見に行きましょうか。差し支えなければ、今必要としているものを教えてください」


「や……」


「はい」


「や、薬草が売られているのを見に行きたいです」


「行きましょう!」


 即答だった。


 一応、囚人魔女であるわたしがどんなものを欲して、どんなものを作ろうとしているのか疑わないのかと心配にはなるものの、彼は疑うことを知らない。


 とはいえ、今回考えていることがバレたわけではないとわかり、ほっとする。


 薬草に関してはあまり詳しい訳ではない。


 それでも嗅覚や触った時の感覚は小さな時におばあちゃんのそばにいた時の記憶が残っている。


 必要なものをできるだけ揃えたかった。


(リタに聞いた名称もメモしてきたし、見つかればいいのだけど)


 ぼんやり考えているうちに、彼はすぐさまいろんな人に問いかけてくれ、わたしの行きたい場所を見つけてくれた。


 彼に声をかけられた女性たちの目の色が変わったのがわかった。


 やっぱりわたしが素敵だと思うだけでなく、街に住む人間たちからも興味を持たれる存在なのだと妙に納得させられた。


 颯爽と歩く姿だって、背景から浮いて見えるくらい完璧だった。


「あ、ここですね」


 住む世界が違う人なのだ、と改めて考えさせられるもすぐに懐かしい香りがして顔を上げた。


 外観はツタで覆われていて、店の前にはいくつもの植物が様々な大きさの鉢に植えられていた。


 魅力的で入ってみたい!と思えるものではなかったけど、おばあちゃんが薬を煎じるために使用していた薬草ハウスの香りがした。


 胸がとくん!と鳴った。


「ごゆっくり」


 快くドアを開けてくれた彼に、少しだけ行ってきます……と告げて店内に足を踏み入れることになる。


「こ……んにちは……」


 チリンとベルに鳴った店内は外から見るよりもずっと広かった。


 どうやらわたしの住んでいる小屋と同じで魔力を持つものが手を加えた建物だろうとすぐにわかった。


 広いと言っても壁に設置された棚すべてにびっしりと植物や何かの粉末が瓶に入ったものなど、何かはすぐに分からないものがたくさん並んでいて圧迫感はある。


 油断をすると頭上のツルに髪の毛がひかかりそうにもなった。


(楽しい……)


 心が震えるという表現があるのなら、今この瞬間なのかもしれない。


 見るものすべてを知るわけではなかったけど、胸が弾んだ。


 もっとたくさん調べてから良かったと思えたほどで、自分の世界の狭さを改めて反省したけど、新しい世界に触れられて嬉しくもあった。

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