第22話 空の旅はあなたとの思い出

 そのあとは、絶叫のひとときだった。


 気を失いそうになるのを必死にこらえたのは、振り落とされるのが怖かったからだ。


 ビュンビュンと聞いたことのない風の音を聞き、体で体感し、想像したことのない移動の速さに目が開けられない。


 開けてしまえば最後。


 胃のあたりがひゅっとしてまた叫び声をあげてしまいそうだった。


 初めての空の旅は最悪で、わたしはこの日、初めて自分は高いところが嫌いなのだと知った。


「大丈夫。もう着きますよ」


 申し訳ないと思いつつも恐怖のあまり必死にしがみつくと彼はできる限り揺れることがないよう支えてくれた。


 それでも怖いものは怖い。


 マイペースにモフモフと泣き、なかなか浮かび上がってくれないモフモフが突然飛び上がったときはもちろん、風を切るように空を飛んでいる今も……足がつかないところにいることがこんなにも恐ろしいことだとは思っていなかった。


 はるか下に見える小さくなった建物に目を向けると胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになる。


 永遠にも思える空の旅を彼に励まされながら乗り切る頃にはわたしは力尽き、目的地に到着しても腰が抜けてまともに歩くことができなくなった。


「……ごめんなさい。あなたにこんなことまでさせてしまって」


 モフモフに何かを告げた彼は、全く使い物にならなくなったわたしを再び抱き抱え、少し離れた距離から現地に向かうことになった。


 連れてきてくれただけでも感謝しかないのに、それ以上に迷惑をかけてしまうなんて。


 力を入れたくても自由が利かなくてぐったりして寄りかかってしまう。


「すっ、すぐに立てるようになると思いますから。先に行きたかったら置いていってください。必ずあとから追いかけますから……」


「いえいえ、役得です」


「え?」


「なんならずっとこのままの移動でも平気です」


「………」


 ま、またこの人は……。


「す、すぐに直りますから!」


 頬をほんのり染めて嬉しそうに笑うから信じてしまいそうになるではないか。


「魔女様、買い物のあと、余裕があったら何か美味しいものでも食べましょうね〜」


 彼は久しぶりの外出にずいぶん胸を弾ませているように見えた。


 それもそのはず、春からずっと彼は話し相手がわたししかいない、あの暗い暗い森の中に閉じ込められているのだ。


 喜ばしいのは当たり前だ。


 むしろ、一言だって文句を言うことなく共に過ごしてくれたことに感謝をしなくてはならない。


 今日、叶うならこの街で必要なものを揃えて、計画を実行に移して、それで早くこの人を解放してあげたいと改めて思った。


 だからこそ、今日一日は良い思い出作りにしたいと、こっそり願っていた。

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