第18話 満月の夜と黒猫と魔女

「もう一度魔女らしきことがしてみたい?」


 明るい明るい大きな満月が今宵も室内を照らす中、黒猫のリタの金色の瞳がキラリと光ったように見えた。


「どういう風の吹き回しだ」


「らしいことがしてみたいというより……お、おばあちゃんのレシピの内容くらいはできるようになりたいなぁ……と思って……」


 さりげなくぼかしながら話を進めてみるも、この人(猫?)はすべてお見通しのようにも見える。


「すっかりあの小僧に絆されたようだな」


「なっ、ちが……」


「まぁ、おまえも年頃だからな。ただし、距離感だけは間違えるなよ、フローラ」


「わ、わかってるわよ……な、な、なにもないったら……」


 ぐっと抱き寄せられたときの温もりや見た目とは違ってたくましいあの腕を思い出し、動揺してしまったのがバレてしまっただろうと思うと恥ずかしくなる。


 リタには人の心が読めないであろうことを願いたい。


「まぁ、おまえはあのババアを超えると言われた魔女だ。ブランクがあるとはいえ、ある程度のことは難なくこなせると思うぞ」


「リタ、協力してくれる?」


「もちろんだ」


「よかった! おばあちゃんとも連絡がつかなくなってしまって、心細かったの! リタがいてくれて本当によかったわ」


 言葉通りだった。


 おばあちゃんと連絡が取れなくなってしまった今、頼れるのはリタしかいなかったため、ほっとした。


「いつか、人のためになるものを作りたいと思っているの」


「は?」


 珍しくリタが瞳を大きく見開き、すぐにゆっくり細めた。


「いかなる理由で?」


「犯してしまった過去は取り返せないと思うの。でも、未来は少しずつ変えていけるんじゃないかと思って。迷惑をかけてしまった分、アベンシャールの人たちにとって、必要とされるものを作れるようになりたいと思っているの」


「はは、おまえ、本当にフローラか」


「からかわないで。春から少しずつ考えていたのよ。そろそろわたしも変わりたいと思っていたのよ。大したことはできないけど」


 うじうじと森の中に引きこもっていた魔女の娘。


 いつまでもこのままでいいのかと不安になったことはないと言ったら嘘になる。 


「人を想う気持ちが一番大切だ。できるかできないかじゃない」


 予想外にも肯定的な意見で小さく安堵する。


「……リタ」


「なんだ?」


 だから、言ってしまった。


「作りたいものもあるの」


 リタには嘘は通じない。


「魔女になる修業は甘くないよ、フローラ」


「よろしくお願いします」


 こうして、リタによる魔術や薬草の使い方についての教えを請うことになる。


 少しずつ少しずつ、わたしの毎日は変わっていく。


 でも、動機がどうであれ目標が見えた今、わたしは前だけをみるようになっていた。

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