第17話 魔女と騎士の夏の思い出

「魔女様……」


「これを使ってください」


「えっ?」


 巾着ごと差し出すと、驚いたように目を見開いた彼が動きを止めてこちらを見ていた。


「見たければ、いつでもこれで見られます」


「ええ?」


 どうやら成功したようだ。


 彼が喜んでくれたことに思わずにやけてしまいそうになるのをぐっとこらえて、そして続けた。


「あなたからは華やかな暮らしを奪ってしまいました。何もなければ王宮で美しい景色を見て過ごせていたでしょうのにここではそんな娯楽は何もなく、申し訳なく思っています」


 水中花火だって……いやもっと美しい景色だって、好きな時に好きなだけ見られたはずだ。


「わたしにはこのくらいのことしかできませんが、美しい景色が見たいときに、これをよかったら使ってください」


「魔女様……」


 色とりどりの輝きが流れるように光って彼を照らす。


「また作りますから」


 もう一度、ちゃんと魔術を学び直すから。


 今のわたしではまだ解放してあげられないけど、もっと力をつけて……


「一緒にいてくれればいいんです」


「えっ?」


 予期していなかったわけではない。


 今の彼なら肯定的な言葉で返してくれるであろうということは。


 それでも、慣れていないわたしが思わずドキッとしてしまったことは許してほしい。


「魔女様、あなたが一緒にいてくれれば俺の景色はいつも美しく輝いて見えていますから」


(へっ……)


 さすがに思考回路が追いついてこなくなり、見上げたわたしをあろうことか彼は抱き寄せたのだ。


「!! ちょっ、何を……」


 どうしてこうなるのか。


「ちょっと……」


「我慢してるんですから、可愛いことをするのはやめてください」


「なっ!」


 我慢している割にしっかり抱きしめているではないか。冗談じゃない。


「ちょっ、はな……」


「あなたが可愛すぎて、この景色もゆっくり楽しめない」


「なっ、ななな……」


 いくらわたしの魔力操られているとはいえ、言い過ぎではないだろうか。


「俺は、とても満足していますよ」


 ありがとうございます、と耳元で囁かれ、くらくらと気が遠くなって勢いよく倒れてしまいそうだった。


 この人は、無自覚なのだろうか。


 それならば何よりも恐ろしい。それに……


「あんなに愛らしいのが悪いです」


 そんなことを言って、そっくりそのまま返してあげたい。


 我に返ったとき、大きく後悔をするのはあなたなんだからと心の底で思いながら、すぅっと息を吸い、わたしはまた必死に抵抗を重ねたのであった。


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