第15話 囚人魔女の懺悔

「俺は騎士です。怖いものなどありません」


「わ、わたしは……あっ、あなたよりも……つ、強いです」


「そ、そうでしたか」


 必死に訴えているというのに突然彼の表情が晴れ、今度は笑い出したいのをこらえているように見えた。


「ほ、本当です! わたしは凶悪な魔女なんです! あなたの元気だって、どんどん奪っていく」


 絶対に信じていない様子だ。


 そっ、そりゃ、彼より強いだなんて言ってしまったのはハッタリだったけど、彼が思うほど魔女は……


「奪う必要があるんですか?」


「え?」


「俺の元気を奪って、あなたに何か利点があるんですか? 体力はある方です。それであなたが喜ぶのなら、どれだけでも奪ってくれても問題ないです」


 どうぞ、とわたしの両手を自分の頬にあてる。


「なっ!」


「怖くないですよ。どうしてもあなたがここから出ていきたいのであれば、俺を倒して出ていってくれればいい」


 出ていっていい……彼はそう言った。


 彼は、ここへ来て、囚人魔女を監視するために遣わされた騎士である。


 そんな彼が、何を言っているのだろうか。


「あなたのいうとおり、俺はあなたに敵わないでしょうから」


「そ、そんな……そんなつもりは……」


 言ってしまってから慌ててしまう。


 脅したつもりだったけど、逃げる気なんてさらさらなかった。


 逃げたところで行くところもないし、もうずっとここにいて、一生反省する人生であることは覚悟できている。


「怖くないです」


 わたしの手首を握る彼の手に力がこもる。


 信じて、というようにまっすぐな瞳がこちらに向けられる。


「俺はあなたに初めて会ったときからあなたが大好きですし、あなたのために何かできるのなら喜んでしたいと思っています」


(そんなわけ……ないじゃない……)


「……に、逃げるつもりはありません」


 逃げるつもりはない。


 そして、この人を操るつもりなんてなかった。


「………」


 手遅れだ。


 言葉にしたいのに出てこなくなって、喉の奥がぐっと熱くなった。


 どうしたら伝わるのだろうか。


 歯を食いしばったら、涙がこぼれた。


 情けない。


「あ……」


 泣いている場合ではないのに。


「あなたを……操りたくないんです……」


 手の温もりが離れることを恐れながら、それでも言わずにはいられなかった。


 いるべき場所を間違えた人を、これ以上ここに捉えておくことなんてできなかった。


「俺以外の他の騎士たちもあなたを好きになりましたか?」


「なっ、なってません! わた……わたし、操ったつもりはなくて……」


「それなら、俺だけですか」


「………」


 そのとおりだ。


 そのとおりだけど…… 


「ご、ごめ……」


「それはそれで嬉しいですね」


 謝ろうとして、そのまま抱き寄せられた。


「え? あっ、ちょっ……」


 慌てふためいて暴れてみたけど、彼は離してくれる様子もなく、その温かさにさらに涙が止まらなくなった。

 

「ごめ……な……さい……」


 謝っても許されないだろう。


 彼はわたしの言葉ではどうにかできる様子ではなさそうだ。


 今すぐにでも、薬草なり何なりで手を打たないとどんどん支配してしまうことになるかもしれない。


 それでも、どこかほっとして、このぬくもりに触れていたいと願う自分がいて、動けなくなってしまったいた。


 わたしは、最悪の魔女だ。

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