第8話 魔女と騎士の初めての朝

『あなたは何も悪くない』 


 都合いい夢を見た。


『俺がお側にいますから』


 そう言って、温かな光に包みこまれた。


 もがいてももがいても逃げられなくて、息が詰まってとてもとても苦しかったけど、自然と足に絡まった重石が緩んでいき、少しずつ息ができるようになった気がした。


 とく、とく……と優しい音がする。


(あったかい……)


 ゆっくり目を開けると良い香りがして、何の香りだろうかとさらに頬を寄せてみるとぐっと引き寄せられた感覚に、ついに違和感を感じ、ぱっと目を開いた。


(う、動かない……)


 ぎゅっと回されたたくましい腕に固定されたように背中に力が入らず、身動きが取れなくなっていた。


「きゃっ!」


 目の前に見える彫刻よりも美しい寝顔に大声が出そうになった。


(ど、どうして……か、彼がここに……)


 なぜかジャドールに抱きしめられる形で、横たわっていた自分はまだ夢でも見ているのではないかとめまいがした。


 動こうとすればするほど、彼の力が強まり、彼の胸元に顔をうずめることになる。


(き、きゃぁぁぁぁぁぁー!)


 声にならない声を発し、パニック状態に陥る。


 なぜ朝からこんなにも刺激の強い状態になっているのだろうか……わからない。


「えっ……」


 どうにかならないものかと試行錯誤を繰り返したとき、ようやく瞳を開いた彼と目が合った。


(っっっ!!!!!!!!!)


 寝起きにこの完璧なご尊顔は凶器でしかない。心臓がいくつあっても足りない。


「おはようございます、魔女様。ご気分はいかがですか?」


 人の気も知らないで、彼は何事もなかったように朝の挨拶をしてくる。


 抱き枕と……いや、誰かと勘違いしているのだろうか。とろけるような笑みを浮かべられてわたしは顔面から火が吹いた気がした。


「ど、どうして……こんな……」


 誰と間違えたかはわからないが、まったく慣れていないわたしにこんなことをするなんて、あんまりではないか。


 胸がバクバクと高鳴り、それが逆に悔しくて、泣きそうになった。


「わっ、す、すみません!」


 突然パッと手を離し、彼は驚いたように目を見開いた。


「………」


「……お久しぶりですね」


 それでもやっぱり、優しい笑顔をこちらに向けて、白々しく続けた。


「なかなかお会いできなかったから心配していたんですよ」


「………」


 平然と言ってらっしゃるけど、久しぶりの再会がこんな至近距離だなんて、どうにも理解に苦しむ。


「うなされているようでしたので、あなたが落ち着かれるまでと思い、昨晩はお供いたしました」


「……っ」


 そんな、まさか……


「その他は誓って何もしていません」


 それはそうだろう。


 久しく見ていない淡い空のような瞳は真剣そのもので、わたしを映していた。


 その姿はあまりにもみすぼらしくほっそりしていて、耳まで真っ赤にした状態でうろたえたその姿に思いのほかがっかりしてしまった。

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