第7話 魔女の記憶と悪夢
『今日からお世話になります! あなたの騎士です!』
あの時のことを、忘れることはないだろう。
室内がぱっと明るくなり、長かった冬が開け、永遠に来ないと思っていた春がやってきたようだった。
流れるような明るい銀髪と空のような淡い瞳、洗練された身のこなしは、ただ者ではなく、彼は間違いなく、この場にいてはいけない人だとすぐにわかった。
『魔女様、魔女様〜』
と優しい視線を向けられるとぐっと胸が痛くなる。
得るものが増えてしまうと、手放す時につらいのだ。
あの人は……と、ずいぶん昔に見た後ろ姿がジャドールと重なって見えた。
彼からはもともと最初から好意を得ていたわけではなかったけど、自ら手にかけてしまって二度と会えなくなった今では、出会わなければよかったとさえ思ってしまう。
彼は、初めて笑いかけてほしいと思った人だった。
初めて仲良くなりたいと思った人。
そして、わたしが一生をめちゃくちゃにしてしまった人。
彼の姿を見つけたら、すべてを忘れるくらい幸せな気持ちになれたと言うのに。
迷惑そうな顔をしながらも、呼びかければいつも足を止めてくれた。
両手を開くと、すべてが風になり、わたしのもとから吹き飛んでいく。何も残らない。
自分の手で、すべてを壊したのだ。
大切なものをすべて。
わたしは、国の王子様に呪いをかけた。
最も恐ろしい呪いだった。
あまりにも驚異的な呪いだったため、最初はおばあちゃんが疑われたくらいだった。
ただただ、彼と仲良くなりたくて、彼に近づける方法をいつも考えていた。
気がついたらうずくまる彼に絶叫しながら駆け寄る側近の方々の姿が目に入った。
悪気はなかったというのは言い訳でしかない。
わたしはしてはいけないことをした。
幸せなど、望んではいけないのだ。
胸が締め付けられるように痛むたび、あの日のことを思い出す。
泣いても叫んでも過去は変えられない。
戻れるのなら、あの日を回避したい。
いつもいつもそう願っては夢を見るのは、彼が微笑みかけてくれるという図々しい夢だった。
自分が嫌いだった。
大切な人を手にかけたから。
それでも生きていて、また新しい希望に手を伸ばそうとしている。
『あなたは悪くない』
夢の中の彼は優しく笑う。
言わせているのだ。
青い顔をしたアベンシャールの末王子さまは、二度と戻ってきてはくれなかったというのに。
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