電話についての奇妙な現象
丹波さんはそこそこのお年だが、最近になってスマホを買ったのだという。その理由が、奇妙な事なのだそうだ。
ケータイを使っていた頃、電話帳から友人に向けて電話をかけようとした。すると『○○です』と言う言葉が来た。友人の名前は○○ではない。
「済みません、間違えました」
間違ってかけたなと謝罪をして電話を切ったところで気が付いた。今の電話はアドレス帳からかけたのだ、今までそれで問題無く通じていたし、編集をした覚えも無い。ならば何故別人にかかったのか?
おかしいなと思い電話を再び電話帳からかけた。しかし今度は『はい、△△です』と返ってきた。『申し訳ありません、間違いです』と言って電話を切る。
アドレス帳が何かの拍子に書き換わったのならまだ分かる、しかし間違い電話にしたって同じ番号にかけたのに二回かけて二回共が別の連絡先にかかることがあるのだろうか?
どうにもおかしいなという気持ちが拭えなかったところで、電話をかけようとしていた南部さんから電話がかかってきた。一通り用件を伝えた後で、『なあ、電話番号変えたりしたか?』と何気なく訊くと、『変えるわけないだろ面倒くさい』と言われた。
アイツは電話番号を変えていない。ならば電話のバグだろうか? しかしそれにしたって奇妙な現象だ。
そしてそれからもアドレス帳から電話をかけているのに、間違い電話になる事が何回も起きた。いよいよ気味が悪くなってきたとき、会社から帰って玄関ポストを確認すると『初めてスマホ割引』と書かれたチラシが入っていた。
電話の調子も悪いみたいだしこれもいい機会だと次の休日にケータイショップに行きスマホに機種変更をした。多少料金が上がったが、それでも払うのが惜しいような金額ではない。
さて、これで電話が新しくなったからと、ショップの機械で移行した電話帳で友人にかけてみた。しかしやはり『★★です』とまたも別の番号にかかってしまった。
困り果てていたときのこと、彼の孫が家に訪れた。その時に入学祝いにスマホを買ってもらっていたのだが、その番号を聞こうとすると、『いや、通話アプリしか使ってないから』と言われた。
丹波さんは通話アプリとはなんだと聞いて、そんなアプリがあるのを初めて知った。そして孫がスマホを操作してアプリをインストールしてくれた。
それから程なく息子夫婦が帰っていったのだが、帰り着いたであろう頃に、無事帰れたかと孫にアプリ経由で通話をしてみた。『大丈夫だよ、ありがと』と言われ一安心したのだが、その時ふと気が付いた。そう言えば間違い電話になっていない。
それから自動登録された友人たちにアプリ経由で通話をしてみた。その結果、アプリで通話をした相手は間違うことなくきちんと相手にかかる事が分かった。
それからスマホを持っている相手には出来る限り通話アプリで電話をかけることにした。まだケータイを持っている相手以外はきちんと通話が出来るようになり、今では友人にスマホに買い替えるように進めているほどだ。
彼は『よく怪談番組とかで黒電話が出てきますけど、通話回線は対応していても、幽霊だってデータ回線での通話には対応できていないんですかね? もし新世代の幽霊が出てきたらこっちでも間違い電話をかけることになるのか、ま、その頃にゃ死んでるだろうがな』と言ってガハハと笑った。
私はその話を聞いて、彼ほどの胆力なら案外幽霊が新世代になっても生きているんじゃないだろうかなどとくだらないことを考えてしまった。
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