霊たちのサービス
天神さんは撮り鉄だそうだ。ただ、「生きている」誰かに迷惑をかけないように気をつけているという。
ここまででおおよそ説明が分かったかもしれないが、彼女は列車事故の現場を訪れては写真を撮るという趣味の悪いことを好んでいる。しかもスマホのカメラがどんどん進化してきて、昔はカメラで写真を撮るのに気後れするところがあったものの、スマホで自撮りをしているように見せかけて事故現場を撮影できるようになってから歯止めがきかなくなった。
ある時は通貨の乱高下で投資家が絶望した場所、ある時は詐欺被害者が命を絶った場所など普通の神経をしていれば到底撮影したくならないようなところを選んでいた。
しかし、彼女によると今まで幽霊が見えたことも撮れたことも一度も無いのだという。
彼女は肩をポキポキ鳴らしながら言う。
「幽霊なんて居ませんよ、これだけ写真を撮ってるなら一人くらい撮影者へのサービスショットを撮らせてくれてるでしょ? それが無いならどんだけケチくさいんだって話ですよ」
きゃははと笑って彼女は咳き込んでいた。
「ああ、怪談を話してたんですよね、そういう写真を期待してましたよね? ん~……そういう経験は無いんですよね……くしゅん」
鼻をすすってそう言う彼女の顔は赤かった。
「体調が悪いのでしたら日を改めても……」
「あー……平気ですよ、最近なんか体がぽかぽかするんですよ。冬に備えてるんでしょうかね、温暖化だなんだと言っても寒いときは寒いので助かりますよ」
そう言う彼女はとても体調がよさそうには見えないのだが……
「それでですね、この前は遺産相続で散々争った末に線路に寝転んだ人のいる踏切を……」
彼女は熱っぽく語っているが、聞いている方としては彼女の体調の方が心配になる。まともな生活をしているようには思えない。
それから体調が悪そうなまま散々騙って彼女とは別れたときに、別れ際、『病院にかかるのをお勧めしますよ』と言ったのだが、彼女はポカンとして何故そんなことを言うのかと不思議そうに聞き返した。
一応警告はしておいたのだが、帰宅してPCを起動させるとSNSにDMが届いていた。彼女のアカウントのようだった。教えた覚えは無いのだがと思いながらメッセージを見ると、彼女の自撮りが写っていた。
何が問題かと言えば、彼女の立っているところの足下は血だまりのような赤が広がっており、帰宅したのはまだ日が沈んでいない時刻だったのに空は真っ暗だった。
もしこれが今撮影して送ってきたものだとするのなら、彼女は十分な霊現象に襲われているのでは無いかと思う。しかしDMに返信しても彼女からのメッセージが届くことは決してなかった。出来ることなら彼女が悪癖を直して健康に暮らしていることを祈るばかりだ。
そして、もし連絡が取れたなら『随分とよく撮れていますよ』と伝えたいなと思う。
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