因果関係
田中さんはPCゲームを趣味にしている。しかしそのせいで酷い目に遭ったことがあるそうだ。
「偶然かもしれないんですけどね、それにしては出来すぎなんですわな」
始まりは彼がフリマアプリで一つのデバイスを買ったことから始まる。
左手デバイスって知ってますかね? キーボードを半分に切ったものにスティックやカスタムキーがツいているもので分かりますか? 平たく言えばPCゲーム用のコントローラーみたいなもんですね。
で、有名メーカーのゲーミングデバイスが妙に安い値段で出ていたんですよ。安さに警戒したんですが、商品説明に『ジャンク品です』と書かれていたんです。それで『ああ、まともに動かないのか』と納得したんですわ。
でもそういうのって程度によれば修理できたりするんですよ? 家にハンダごてもありますし、高校で使って以来しまい込んでいたものを使って久しぶりに修理でもしてみるかと思ったんですよ。
もし修理不能でも痛くない金額だったので早速購入して届くのを待ったんです。
それから少しして届いたんですが、真っ黒な箱に入っていたんですわ。まあそんなこともあるやろと思って気にしなかったんですがなあ……明らかに正規品の箱ではないので、ジャンク品を騙った偽物かと思ったんすね。
とはいえ使ってみないことには分からない。と言うことでとりあえず故障がないかサブのPCに繋いで異常がでないのを確認して、メインのPCに繋いだんすね。
それから正常に動くかどうかチェックしたんすけど、大体正常に動いたんすが、一カ所だけ反応の悪い場所が合ったんですよ。左端の小指が担当する部分の反応が微妙に悪いんですね。そこでどうせ誰が使ったものか分からないということで、分解洗浄をしようとしたんです。
そうして分解したんですけど……ハンダのクラックって分かります? 要は部品をつけているハンダがいろんな理由で浮いたり割れたりして接触の悪い状態だったんですよ。ええ、もちろん小指の部分ですわな。
なるほどこれで接触が悪かったのかと思い、部品を剥がして基板だけにして家にあったハンダで修復したんすわ。どうせ自分しか使わないものだからと有鉛ハンダでつけたんですよ。
それが良かったのか、洗浄をして組み立てるとすっかり新品のような動作をするんですよ。一応対応アプリも入れましたが、正規品として認識しているので偽物じゃないようでした。
これは思わぬ掘り出し物だったなとホクホクで近所にエナドリを買いに向かったんすよ。早速左手デバイスでゲームをしようと思いましてね。
それで住んでいるマンションを出てすぐ、視界がひっくり返って気が付いたら病院でした。
はじめは何があったのか分からなかったんすがね、どうも道に出てすぐスピード違反の車にはねられたという説明でした。
偶然かもしれないんすが、その時左手の小指の骨が折れていたと聞き、治療のために金属のピンを骨が繋がるまで刺していると言うことでした。
その固定具を外すまでしばらくかかったんすがね、偶然だと思いますか? 左手デバイスの小指部分をイジったら自分の小指がぐにゃっといったんすわ。なんか嫌な偶然だなと思ってそのデバイスはジャンクショップに売りましたわ。値段なんてほぼつかなかったッすが、一刻も早く手放したかったんでね。
それから治療が終わると普通の生活に戻ったんすが、偶然と片付けるべきと分かっていても、なんとも気分の悪い出来事でしたなあ……
そう語る田中さんは今でもゲームを毎日やっているそうだ。小指もすっかり調子が戻り、今では割と高ランク帯にいるのだそうだ。
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