開かずの間に祀ってあるもの
木戸さんは高校生の頃、奇妙な体験をしたそうだ。それによると、彼の家が関係しているらしい。
彼の家は田舎にあって、結構な古さなのだが、両親どころか祖父母の代から手をつけていないのだという。何か理由があるのかと聞いても教えてはもらえなかった。
そしてその家には一つの開かずの間があった。そこは押しても引いても開かず、扉の立て付けでも悪いのだろうかと思っていた。広い家だったし、一つくらい空かない部屋があっても気にしなかった。
そんなものが当たり前になっていた頃、彼は大学受験に追い詰められていた。志望校の判定が良いものではなく、必死に勉強していたのでイライラが募っていた。
家族に当たることもあったし、フラストレーションをぶつけるものが欲しかった。しかしそんなことをしている暇があったら受験勉強をしなければならない。精神的にかなりきつい状態だったという。
そんなある日、夜中に目が覚めた。トイレにでも行こうかと部屋を出て歩いていると、廊下の明かりが点いていた。誰か起きているのだろうかと思い足音を立てないように歩いていた。すると開かずの間から光が漏れているのに気が付いた。あの部屋が開いている? と奇妙に思ったのだが、好奇心に勝てずこっそり近寄ってその戸の隙間から覗いた。
中には彼のお婆さんが居て、小さな鳥居のようなものに拝んでいた。異常なものであることはわかったのだが、声をかけるわけにもいかずそっと戸から離れてトイレに行ってその部屋の前を通らないように自室に帰った。
不思議な事だがアレを見てからすっかりイライラが消えていた。当時は恐怖に近い何かのせいだと思っていた。
不思議とその日から勉強は順調に進んで、志望校の判定も多分大丈夫なところまで成績が上がった。そうして無事、第一志望の大学には進学できた。
合格通知が届いたときに家族みんなでささやかなお祝いを開いてくれた。教師からも辞めとけと言われていた志望校だったので合格したのは大いに驚かれるほどだったそうだ。
それからお祝いが終わった後のこと、宴会のようなものを終え、自室でマンガを久しぶりに読んでいるとドアがノックされた。開けてみると婆さんが立っていたと言う。なんとなくあの部屋のことを思い出して気まずかったのだが、『手を出しんしゃい』と言われたのでおずおずと手を出すと、その手に一枚の木札を渡された。
「これを持っていればあの部屋が開くけんね、いざというときには使いんしゃい」
そう言われ、何の事だと言いたかったが何処のことかは明らかだったので黙っておいた。
そうして一応解決をしたのだが、大学に進学するのを待ってから祖母が亡くなったのだという。満足げな顔をして亡くなっていたので、はじめは死んでいると思われなかったそうだが、ベッドに寝ている祖母が声をかけても無反応なので触れてみると冷たくなっていたそうだ。
家族にはあの鳥居のことは話していない。あそこに何が祀られているのかもわからないし、知りたいとも思わなかった。ただ、今となっては孫のために手段を選ばなかった祖母がしたことも理解は出来るそうだ。
私に話を終え謝礼を渡すと、『息子に良い小遣いになるよ』と言っていた。今の彼は息子が出来てからあの部屋を使っていた婆さんの気持ちも分かるんだよと言っていた。
幸いまだ使うほど追い詰められたことは無いそうだが、もし自分の息子が追い詰められるようなことになったら迷わず使うだろうとのことだ。
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