山に帰る友人

 財前さんが中学生の頃の話。まだケータイは持っている子が少なく、せいぜいが携帯ゲーム機を持っているくらいの子しかいなかった頃の話になるそうだ。


「今は初めて触ったゲーム機がカラーの人も居るんですかね? 良い時代ですよまったく」


 それから彼の今より少し前の話が始まった。


 当時はなあ……携帯電話なんて便利なもん無かったし、門限はあったが破っても探しようが無い時代だったな。そんな時代だからさ、山や川は良い遊び場だったんだ。


 ああ? そういや今じゃ寄生虫だ病気だと自然の中で遊ぶのも推奨されちゃいないが、昔はその辺放任されてたな。良いか悪いかなんてわかんねえがな、それなりに楽しい時代だったよ。


 そんな時代に山で遊ぶ約束をC,Dとしていたときの話だよ。山の入り口で待ち合わせをしていたんだがな、CもDも来ないんだよ。ぎりぎり腕時計は持ってたから遅いなって思いながら待ってたんだよ。


 そうしたら『おーい、おーい』と声がするんだ。見ると山を少し登ったところでCとDが呼んでるんだよ。なんだよアイツら、先に行ってたのかと思いながら山を登ったな。


 でも不思議なんだよ、山を登っても登ってもいつも遊び場にしている場所に着かないんだ。それなのにCとDはすいすいと登っていく、気味が悪かったよ。


 でさあ、二人に『なんかおかしくないか?』って言ったら『何が? 普通じゃん』って言われて、そう言われると逃げるのもみっともなくってさ、ついていったんだ。


 しばらく歩いたと思ったら神社の境内に出たんだ。何時通ったかもわからない鳥居が後ろにあったのには驚いたよ。CもDも迷うこと無く本殿に向かって歩いていってな、そのまま社殿に入るんだよ。流石に『怒られるぞ!』って言ったんだが、聞こえていないように無視されて、気分が悪くなったのでそのまま自分だけ逃げ出したんだ。


 不思議な話なんだが、かなり登ったと思ったんだが、降り始めるといきなり山の麓の道路に出たんだ。なんであんなに時間がかかったのかも分からないし、そもそも山の上に神社があるなんて聞いてない。何もかもわからなかったよ。


 ただ怖くなって自宅に帰ったんだが、どうも帰れたのは俺だけみたいで、翌日の学校からCとDは消えたんだ。二人が消えたことより気味が悪いのは二人も消えたのにみんなしれっとしているんだよ。なんでもないことのように居なかったようにみんな過ごしてる。怖くなったね。


 一度だけさ、二人がどうなったのか両親そろっているときに訊いたんだ。そうしたら頭を小突かれて『その話は他所でするなよ』とだけ言われたんだ。


 別に何の根拠があるわけでも無いんだけどさ、俺はあの二人は山の生贄になったんじゃ無いかと思ってる。根拠はさ、田舎丸出しの地域なのに何故か農業だけでそれなりに稼いでるんだ。普通いくら農協があるからって裕福に暮らすほどの土地はないはずなんだが、毎年豊作なんだよなあ……


 ああ、場所については伏せておくよ。評判が悪くなるとかそう言うのもあるけどさ、何よりあんなところに迷い込んで何かあったら俺の責任になるからな。


 そう言って財前さんは話を終えた。謝礼を渡そうとしたところ、『いらんよ。俺があの二人のことを話しておきたかっただけだし、未だに実家から結構な仕送りがあるんだ。いい年してるのにな……ただ、仕送りの度に「帰ってこい」と言われるのは気分悪いけどなあ』と言って去って行った。きっと彼はもう故郷に帰るつもりはないのだろう。

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