クローゼットに潜むもの

 金沢さんは以前、事故物件に住んでいたそうだ。彼によると『安いですから』の一言で片付く問題らしい。ただ、彼は『視える』方なのに平気で事故物件に住んでいるというのだから胆力は確かだ。


「幽霊なんて気にしなきゃ害がないんですよ。みなさん大げさに考えすぎなんですって。それに本当にヤバイものからは逃げればすみますからね」


 そうはっきりと言い放つ彼は堂々としていた。しかしそんな彼にも怖いことがなかったわけではなかったらしい。


 怖いなって思ったのはアレですね、部屋のクローゼットの中に出てくる幽霊ですよ。害はないんですが、見た目っていうか、雰囲気っていうか、とにかくそういう怖さがあったんですよ。


 あの日は彼女を連れて部屋に帰ってきたんですよ、ああ、その部屋もいつもの様に事故物件でしてね。彼女……ユイって言うんですが、視えない方だったんで連れ込んでも問題無いだろうって思ったんですよ。


 ところがねえ、ユイときたら家に憑いた途端に青ざめてから『私帰る』とだけ言って足早に帰っていったんですよ。なんだよいい雰囲気だっただろうがって思いましたが、もしかしたら何か感じるものがあるのかもなと思いまして、二人で飲もうと思っていた缶チューハイを一人でゴクゴク開けて飲み干したんです。


 イライラも相まって酒が進んであっという間に二缶ほど空いたんですよ。ほら、彼女を連れ込むってことで度数高めの酒を買ってきてたので三本目を飲む頃にはふらふらになってました。


 バタンと後ろに倒れて愚痴りながら寝たんです。その日は冬だったんですけど妙に温かいなと思ったんです。


 目が覚めるとクローゼットの中にしまってあったはずの掛け布団が自分にかけられているんです。意識が無い間にかけたのかなと思ったんですが、それをどかそうと手でどけようとしたら違和感があったんです。


 自分でもどこかで『やめた方がいい』と分かっていたんですが、布団の感触がおかしいのでハサミで布団を切ったんです。どこか確証があって切り開いたんですが、中からはバサッと髪の毛の塊が出てきました。綿も化繊も一切入っておらず、髪だけが中身の布団でした。


 怖くなった髪は中の見えない紙袋に入れて小出しにゴミに捨てたんですが、そこはさすがに気味が悪い……というのもありますし、布団も馬鹿にならない値段なので引っ越しましたよ。次も事故物件にしたんですが、ホント懲りませんよね。幸いそっちでは幽霊なんて出てこなかったので良かったものの、もう少し何か調べた方がいいのかも知れませんね。


 ただ……件の部屋は大人は死んでおらず、新生児が亡くなって、困った母親がクローゼットに遺体を隠しておいたって言う物件なんですよね。なんで新生児にあんな沢山の髪が用意できたんでしょうか、今となってはどうでもいいことですけどね。

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