電車を待つ男
祐子さんが中学生だった頃の話だ。彼女は夏休み、高校受験のための講習に通っていた。その時に起きたことだそうだ。
「ホント田舎の悪いところなんですけど、講習一つ受けるのにも電車を使って出かけないといけないんですよ、面倒くさかったですねえ……」
とはいえ、駅と言ってもろくに電車が来ないので地元の駅では飛び込みなんて起きやしないんですがね。流石に電車に飛び込むのに一時間一本来るか来ないかの電車を待つような方はいませんから。
ま、そんなわけで電車で講習をしている町まで通っていたんですよ。結構な手間でしたね。それで電車を待っていたときなんですが、元々人が少ないホームだったんですが喪服を着た人が一人でベンチに座っていたんです。
こんなところで葬儀なんてやったかなと思いながら電車を待っていたんです。そうすると電車が来る音がしたので鞄を持って立とうとすると、男が線路に向かって歩いていくんです。同じ電車に乗るのかなって思っていたら線路に飛び込む勢いで歩いていくんです。
「危ない!」
言ったときには電車がホームに来ていたんですが、男はホームから飛び降りた瞬間にふっと消えたんです。
振り返るとベンチに変わらず男の人は座っているんです。あっ、これはダメなやつだと思って電車に乗り込んでさっさと駅から出ましたよ。もちろん電車も何かに衝突したなんて事はなく普通に走り出しました。あの人が誰かは分かりませんが関わりたくはないですね。
ただ、田舎なので一駅前で降りるわけにもいかず、夜も遅くなった頃、いつもの駅で降りたんです。そしたらやっぱりあの男の人が変わらずホームのベンチに座っているんです。終電まで繰り返すつもりなのかと思いながらそれ以上どうしようも無いので私は無視して帰りました。
それで、この先が信じられないようなことなんですが、私が深夜に明日の予習をしていたんです。そしたらボーッと汽笛の音がしたんです。電車の警笛音にしてはおかしいので窓から外を見たんです。そうしたら終電もとっくに過ぎた駅に……機関車が止まっていたんです。ほら、コテコテの古くて黒い車体の汽車がもうもうと黒い煙を上げながら止まっているんですよ。
あんな異常なものが停まっているのに誰も気にしていないんですよ。そのまま機関車は速度を上げて走り去っていきました。混乱しましたし、勉強のしすぎかと思ってその日はそこで切り上げて寝たんです。
翌日なんですが、また講習のために駅に行くと昨日の男の人は居ませんでした。やはりあの機関車が連れて行ったんでしょうか?
理解は出来ない出来事でしたが、男の幽霊はそうして消えたんです。アレって一体なんだったんでしょうね? そもそも機関車が今の世代の電車のレールの上を走れるのかとか、パンタグラフが邪魔じゃないかとかいろいろ思うんですが、その時は気にする余裕も無かったんですよね。
地元をもう離れてしまいましたが、二度と見たくないものの一つですよ。幸いここらならそう言うものを見ても降りる駅をずらせば逃げられるから良いんですがね……
そう語った彼女はその講習で勉強したおかげで県外の高校に出られたそうなので、嫌なものを見たが仕方ないことだったと諦めているそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます