田舎の因習
上村さんは様々な地域の民話や伝承を調べていることになっている……そうだ。
「実際はオカルト雑誌に載せるために調べてるんですけどね、まさか取材先でウチの雑誌に載せたいので、話を聞かせてもらえませんかなんて言えない程度には信用が無いですから」
とにかくそう言うオカルトゴシップ誌に載せるのが目的で各地を回っているそうだ。
「ただ……こんなことをやってると、本当にヤバイものに会うこともあるんですよ」
その本当にヤバイものについての話を伺った。
アレは地方で未だに大きな建物を建てるときに人柱を使っているという、よくあるゴシップの取材に行った時のことなんですがね。そんなことばかり調べているもので、当然ですが本当の事なんて話せないわけですよ。
それで地方に飛んで、該当の村まで行ったんですが、これがまた遠いんですよ。駅と駅の間に十キロくらい普通にありますからね。狙った駅に降りてそこからバスで少し行って、そこからはタクシーですよ。本当は経費の関係でタクシーは危ういんですがね、結構カツカツなもので。
ああ、白タクでしたよ。法律違反なのはともかく、そんな村の近くに呼べばすぐ来るタクシーなんて居ませんから、乗るくらいならいいだろと思ってタクシーに乗ったんですよ。
それで、出来るだけ観光客を装うように旅館に泊まることにしていたんですが、そこがまたボロいんですよ。こんな事言ったら申し訳ないですが、ビジネスホテルにすればよかったと後悔するくらいでした。
そんなことを思っていても夜になると寝てしまうんですがね、人間睡眠欲には勝てないんですよ。
その晩のことなんですが、部屋に屈強な男が出たんです。土嚢を担いでいたりスコップを持っていたりしましたね。問題は狭い部屋に幽霊らしきものが複数出た上、その中心に泣いている女の子がいたんですよ。アレ絶対人柱ですよ。
ただね、そんなこと誰に言うわけにもいかないじゃないですか? 怖くなって取材にかこつけて村の写真を夜通し撮って気を紛らわしていました。
翌朝は眠かったんですが大急ぎで白タクを使って駅まで送ってもらいました。あんなところに長いこと居たら本当に命を取られるような気がしましたね。人柱って少女を使うんですね……可哀想というかなんというか。
それで成果ゼロだと気まずいので夜に撮影した写真を申し訳なさそうに編集長に見せたんですが、『これは載せられないやつだな』とあっさり切り捨てられたんです。当然だと思ったんですが、続いて『本物を捕ってくるやつがあるか!』って言われて一枚の写真をこちらに見せてきたんです。あの時は写真の精査なんてしていませんでしたから始めてじっくり見たんです。
そうしたら少女が道の脇で首まで埋まって涙を流しているんですよ。アレが本物ってやつなのかと思うと同時に編集長も、本当に危ないものは掲載しないモラルみたいなものがあったのに驚きましたよ。
結局その写真の入ったSDカードと一緒にお焚き上げしてもらいました。だからもう何の証拠も残っていないんですがね。
え? そこが何処の村かって? いやあ、それは勘弁してください、あの場所をペラペラしゃべったらあそこから怒られるかも知れませんし、興味本位で行く人がいるかもしれませんからね。
そう言って彼の話は終わった。私はそのお礼に、いくつかよくある怪談を話したのだが、彼曰く『いい感じにゴシップっぽい』という謎の評価を受けたのだった。
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