まだまだ子供
これは木之本さんが彼岸に墓参りをしたときのことだそうだ。少しだけ不思議だったので話したいらしい。
彼女がまだ暑い頃に墓参りをしに実家に帰省した。「あっついねえ……」「そんなものよ」などと家族と言い合いながら久しぶりに自分以外の作った夕食を食べた。
「あんた、おじいちゃんにもおばあちゃんにもお世話になったんだからちゃんとお参りしておきなさいよ」
「分かってるよ、今にして思うと随分お世話になったよねえ……」
「今更気づいたの……」
などと母親と言い合っていった。彼女が大学に入り、地元を出る時にまとまった金額の入学祝いを出してもらった。今にして思うとポンと出すにはあまりにも大きな金額だった。
あの金額の重さを知ったのは大学に入ってバイトをしてからのことだった。だからそれなりに恩義には感じていた。
彼女はその晩ストンと眠りに落ちたのだが、夢の中に祖父母が出てきた。ニコニコと良い笑顔をそしている。
「ああ、久しぶり」
夢の中だったからか、その言葉も普通に違和感なく出た。もうとっくに亡くなっているというのに、何故かそれが不思議な事だとは思わなかった。
翌日、目が覚めると夢のことはほとんど忘れていた。何かを言っていたような気がするのだが、思い出すことも出来ない。
そのまま実家のお墓参りをして帰宅しようとした。その時に寺の鐘がゴーンと鳴った。おかしいなと思っていると、寺から住職が走り出てきた。
「少々良いでしょうか? あなたが先ほどそのお墓に参った方でしょうか?」
困惑しつつも頷くと、住職が寺の横の自宅に少し入ってお茶を出すと言ってくれた。お断りしようとしたが、『大事な話なので』と言われそのまま家に入った。
そこで住職が言うことには、あの墓に入っている人はいつも新しく入ってくる人を待っていて、あまり人に近寄らないように注意していたのだが、彼女が入ってきたことに全く気が付かなかったことに驚いたそうだ。
そして鐘をならそうと出てきたときに彼女を見つけたそうだ。
「あなたはあのお墓に眠っておられる方が本当に来てほしかった人なのでしょう。きっとかわいがられたのだとは思います。でもあなたはまだご永眠なさるには早すぎる」
物騒な話を聞かされて少々面食らう。墓に呼ばれるなどと言うことがあるのだろうか?
「あの……あのお墓には私の祖父母が眠っていて……とても呼ぶような人には思えないんですが……」
すると住職は真剣な顔になって言う。
「確かに、亡くなって欲しいと思っているわけではないのでしょう。それでもお墓に眠っておられる方は時々寂しい寂しいと人を呼んでしまうことがあるのです」
「では……もうお墓に参らない方がいいと?」
「でしょうな……あなたにはお辛いことかも知れませんが、家のお仏壇くらいにしておくべきでしょう」
そう言われ上手く話を飲み込めないでいると、『さあ、何時までもここにおられては呼ばれますから、気をつけて帰ってください』と言われた。
そんなことがあるのだろうかと思いながら実家に帰宅すると、家の前で事故処理車が停まっている。そっとそれを避けて家に入ると、あそこで車が突然塀に向かってぶつかったらしいと聞いた。
その事故が起きた時刻は、そろそろ墓参りから帰ろうとして少しした時間だった。もしあのまま帰っていたら巻き込まれていたのかもしれない。そう考えるとゾッとしたそうだ。
今では、実家に帰っても仏壇を拝むだけにしている。お墓参りは気が進まないのでしていないそうだ。ただ、年をそれなりに取ってからにしましょうかねと彼女は笑う。
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