人嫌いのワケ
鏑木さんは酷い人間嫌いなのだそうだが、それには立派な理由があるので釈明したいと私に話を持ちかけてきた。一応心霊的なモノになるのでどうかと言われ、そういうことならと話を伺うことにした。
彼の主張によると、人間というものが面倒なのだそうだ。表面上いくら取り繕っていても腹の底では何を考えているか分からない。それなら本能に従って生きている犬や猫の方が付き合いやすいそうだ。そのため彼の家には犬と猫を二頭ずつ飼っているとのことだ。
「人間だから無条件に悪いなんて言いませんがね、あからさまに嘘をついているのが分かるとゲンナリするんですよ」
彼は高校時代、一人の女友達に彼の友人を紹介してくれと頼まれた。別に構わないがなんとなく不穏な空気を感じた。そういう雰囲気には直感が働くのだという。
しかしその子は友人との仲を取り持ってほしいだけと言うが、腹の底に何かあるんだろうなと思った。
とはいえそれを突き詰めてもコイツは絶対に答えないだろうし、不毛な言い争いは好きじゃない。そのため友人を紹介したのだが、その友人とは気が合ったらしく、すぐに交際を始めた。
それから少ししてからのことだ。彼は学校の階段を下りているとき、後ろからポンと押された。それほど高い階段ではなかったが転げ落ちたので擦り傷と打撲は結構な数を負うことになった。
階段で自分の後ろには何もなかったのは確認していたし、誰かが突き落とすことは不可能だ。では何がやったのだろうと疑問に思いつつ痛む体を引きずって帰宅すると、傷を消毒して寝た。その日夢を見た。
その夢ではクラスメイトが自分に向けて頭を下げていたそうだ。なんだコイツと思う程度には交流の無い生徒だった。どうしてそんなことをしているのか聞きたくなったが、その理由は分からなかった。
翌週、彼女を紹介した友人が一人の生徒と殴り合いのケンカをして退学処分になったと聞いた。思いだしてみると退学になったその生徒は夢の中で彼に謝っていた男だった。
なんでも彼女をめぐっての交際でトラブルがあったらしい。それで自分を呪ったのだから夢の中で謝ってきたのだろう。傍迷惑も良いところだと思ったが、何より腹が立ったのは二股をかけた女の方には全く被害がなかったことだそうだ。どうしてこんな目に合わなきゃならないんだと思いつつ、少しくらいは悪いことをしたかなと思った。
それでまあ大学に行ったんですがね……やっぱりあの時のことがトラウマになってまして、どうも合コンだのといったものに出る気がしなかったんですよ。自分から交際を申し込もうにも二の足を踏みますし、紹介されるのも信用できない。おかげで俺も嫌なやつだって思われるようになりました。
ただ……悪いことばかりでもないんですよね。嫌なやつと思われておけば理不尽な出来事が向こうから来たりはしないですからね。
結局、自分への悪評のおかげで問題も遠ざけられているんですよ。良いことでも褒められたことでもないのでしょうけど、あの時の夢に出てきたクラスメイトが泣き顔で謝っていたのを思い出すと、あんなものを再び見るくらいなら、いっそ嫌なやつとして没交渉でも良いんじゃないかって思うんですよ。
彼はそう語って話を終えた。今でも人が無条件に信用できないので困っているのだそうだ。
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