事故はあったのだろうか?

 玉野さんは社会人になってからすぐ、奇妙な体験をしたのだという。


「うーん……怖い話なのかな? 気持ちが悪い話なのは確かなんですけどねえ」


 彼女の話は以下のようになる。


 その地方でそこそこの大学を出て地元で就職をした。高校大学の受験まで支障なく過ぎて、就活で多少苦労しただけで順調そのものだった。だから就活が上手く言った時点で人生勝ち確だと思っていたらしい。


 実際、研修は無事終わったし、IT企業の一員としてやっていけると思っていた。ただ、そんな時にそれは起きた。


 そこそこの残業をした夜、バスを降りて自宅への道を行っている途中、ドスンと鈍い音が響いた。それと共に急ブレーキの音がしたのでつい好奇心もあってそちらへ向かっていった。そこにはトラックの運転手が警察に電話をしている姿があった。


 その時は事故なのかと思ったのだが、運転手が慌てているのに被害者の方はどう見てもいない。よほど遠くにはねられたのだろうかと思ってトラックの方を見ると、全面には一切の傷も汚れも無い、洗車したばかりのようだった。これが事故後に洗車したなら証拠隠滅と言われても無理はないだろうが、今音を聞いてここに来たのだからトラックが洗車と板金を一瞬で出来るはずもない。


 となると一体何がぶつかっていたのか? 興味があって裏側にも回ってみたが、そちらにも傷一つない。てっきり事故だと思ったのだが後ろも前もぶつけられていない。


 その時サイレンも鳴らさずパトカーがやって来た。事件なのだからサイレンを鳴らしていないのはおかしいのだが、とにかく警察は来たようなので離れようとしたが、パトカーから『そこの女の人もご協力を』と頼まれてしまったので、仕方なく協力することにした。


「人がいて、気づいたらぶつかってて、でも誰も居なくて」


 運転手の人は混乱しているようなので協力する必要もあるのだろう。完全に巻き込まれだが、乗りかかった船ということもある。


「すいません、あなたは事故の瞬間を見ましたか?」


 そう聞かれたので正直に『その瞬間は見ていないです、音は聞きましたが……』と答えると、警察の人はゲンナリとした顔になって言う。


「あなたは現場を見ていたようですが痕跡は無かったんですよね?」


 頷くと運転手から距離を取って話を聞かされた。その時に当事者の運転手には言わないようにと念を押された。


 警察の人によると、定期的に大きい車が走っているとぶつかった音と衝撃がして通報があるのだそうだ。この交差点で悲惨な事故などは起きていないのだが、そういった怪現象が絶えず困っているそうだ。本当に事故がある可能性は否定できないので通報があったら現場に行かないわけにもいかず、ここは本当に悩みの種なのだそうだ。


 さて、それだけ聞かれて解放されたのだが、問題はここを割と通るということだ。警察の人によるとミニバンでも通報があったそうなので、少し調子に乗った車に乗っていると体験してしまうかもしれない。そう思うと怖くなり、折角職場への通勤がスムーズな場所に居を構えたのだが、あえて遠まわりをしてそこを通らず通勤をすることになったそうだ。

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