自分の記憶、人の記憶
「今となっては夢と区別も付かないんですがね」
そういった話らしいが、彼女しか覚えていない記憶があるのだそうだ。
まだ幼稚園の頃でしたかね、梅雨の時期のことでした。その日は雨がしとしと降っていて、陰鬱な雰囲気でした。とはいえ、子供からすれば精々外で遊べない程度で屋内では自由に遊んでいたんですよ。
楽しいじゃないですか? 屋内で屋外のような遊びが出来るのはワクワクしていたんです。
そうして一通り遊んでから疲れたので休憩スペースで一休みをしていました。でもね、そこには先客がいたんです。園児同士で悪いなとか考えるような間柄ではないんですが、その子は黒髪に三白眼で、肌は太陽に晒されたことがないんじゃないかと言うくらい白かったんですよ。
邪魔をしないようにそこにあった箱に腰掛けて一休みしていたんです。他のみんなのことを見ながら時折横の子も見ていたんです。
でもね、その子って何故か一言もしゃべらないんです。無口な子かなと思ったんですが、そんなことを考えている間に体が動くようになったので他の子たちに交じって遊んだんです。その時にチラリと見えた休憩スペースは園児なんていませんでした。
それからというもの、一人の時に鍵ってその子を見るんです。図書室で絵本を読んでいたり、両親の迎えが遅くなるときなど一人残っていると彼女もいつの間にか同じ部屋にいるんです。
おかしいとは少し思ったのですけど、一人よりマシかと思ってそのこの事は気のあう同級生程度に考えていました。
そうしてそのまま幼稚園生活をしてから、卒園の日が来たんです。ついこの前まで一緒に図書室で本を読んでいたあの子は居ませんでした。体調不良だろうかとは思ったんですけど、どうにもしようがないじゃないですか、後日卒業証書をもらいに来るんだろうくらいに思って呑気にしていました。
ただですね、園児の保護者席を見たんです。そこに一人、当時は黒服としか思っていませんでしたが、あの服は喪服ですね。
その人は、目尻をハンカチで拭いながら先生の話を聞いていました。当時はいい大人でも泣くんだな、なんてしょーもないことを考えながらそのまま卒園したんです。
小学生になってで来た友人にふとその話をすると、『それ本当?』と言うんです。その子、幼稚園は一緒だったんですよ。
でも私が見た子の姿を言うと、彼女は青ざめるんです。それから私を休み時間に教室から連れ出し、機密情報を話すように言うんです。
どうやらその子は年少時代にいた子で、一年持たずに亡くなってしまったと言うんです。じゃあアレは誰? と言っても答えなんて出ませんよね。
そして卒園式に出ていた女の人は彼女にも分かったらしく、その子の親が自分だけでもと頼み込んで出席させてもらったと聞いたと言っていました。
確かに小学校にその子はいないんですよ。だから幽霊で済ませればいいんでしょうが、これは私の考えなのですが、あの子はあの母親が産みだした
なんとなくですがあの少女は母親の執念で存在していた幻みたいな存在じゃないかと思うんですよ。
結局、真相は分かりませんが、あの子は良い子だったのだとは思っていますよ。
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