もっと早く

 斉藤さんは昔、あまり素行の良くない友人たちと付き合っていて、自身も褒められるようなことは無い生活をして痛そうだ。


「あの頃は……おっと、語るのは武勇伝ではなく怪談でしたね、失礼、年を取ると昔話をしたくなっていけませんね」


 そう言ってから彼は怪異の体験を話してくれた。


 昔は当たり前だったんですが、スマホどころか携帯電話だってありゃしないんですよ、だからバイクで走ろうとしていたら勝手に集まるんですよ。恋人同士の甘酸っぱい関係なら自宅に電話と言うこともできますが、『今から騒音と排ガスまき散らしながら走りますから○○に伝えてください』なんて言えるわけもないですしね。


 それで決まったように週末に山の麓に集まって、幸いと言うべきか、滅多に人の通らない道なので車が来ないようにしてバイクに乗っていたんです。まあ……都会でやったら大問題ですけど、あいにく田舎なもので、塞いでも滅多に通ろうとする車なんてきませんし、たまに来たらみんなに知らせて通り過ぎさせても不自由はなかったんです。


 それでその日も好きに走っていたんですけど、少々問題が起きまして、塞いである道で何故か自分が先頭付近を走っていたのに、前の方に純正にしか見えないバイクがいつの間にか走っていたんですよ。いや、純正なんて当時の仲間で乗っているやつはいませんでしたよ。250ccまで車検が無いのをいいことに、好き放題カスタムしたものに乗っていましたから。


 かくいう自分も法律というレギュレーション違反はしていたわけですが、その純正のバイクがやたらと速いんですよ。自分たちは危険な走行をしているというのに、前を走るバイクは安全に気を配って走っているように見えるのに何故か追いつけないんです。


 そこでみんな少しイライラし始めてただでさえ危ない運転にもっとスピードをつけたんですよ。それでも前をは知る奴を追い抜けない。その時でした、カーブに減速無しで突っ込んだやつが転倒したんです、前の方のやつだったので後続が何台も巻き込まれましたよ。


 それで止まったときにはもう前を走っていたバイクは居なくなりました。それから救急車を呼んで、警察にこってり絞られてみんな解散になりました。アレだけ仲間意識が云々言っていても、別れるときはあっけないものです。


 ただねえ、警察の方も前を走っていたバイクの痕跡なんてないと言っていたんですよ。走っていたグループのみんなが見ていたというので奇妙には思っていたようですが、証拠は見つけられなかったようですね。


 あの幽霊みたいなものが良いものか悪いものかなんて分かんないですけど、もしあそこで解散していなかったら、今こうして満足に話せているかは怪しいものだと思っています。


 彼はそう言って話を終えた。楽しい思い出ではないそうだが、息子が生まれたら絶対にバイクには乗せないと断言していた。楽しかろうが死ぬような目に合わせてまで楽しむものではないのだそうだ。

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