迎えに来た人
皇さんが小学生だったときのことだ、彼女が友達と遊んでいたときのことになる。
「些細な話ではあるんですけどね、覚えてはいるんですよ。ただ、今となっては幻だったと言われても否定のしようはないんですけどね」
まだ低学年の頃、彼女はちょっとした病気をした。所謂リンゴ病であり、頬が赤く染まるものの、自身にあまり自覚症状はなかったのだが、学校に着くなり校門で立っていた教師に止められた。
見た目がおかしいからと病院に行くよう言われ、保護者を呼ぶように言われた。当時はおかしいと思わなかったのだが、両親ともに働いているので家に電話をかけようと誰もでないはずだった、当時は携帯は一般的ではない。
ただ、『お迎えに来るらしいから』と言われて保健室に隔離された。仕方ないなと思いながらぼんやり待っていた。誰が来るのかとは思っていたのだが、じきにおばあちゃんが迎えに来た。抱きつこうとしたのを一応感染する病気だからやめようねと止められ、そのまま『帰ろうか』と言うおばあちゃんの後をついていった。
帰り道の途中、総合病院に寄った。当時はかかりつけ医が一般的ではなかったので近所にあると言う理由だけで総合病院にかかった。診断は教師の見立て通りリンゴ病で、薬を出され数日間学校を休むように言われた。
薬を袋でもらって、手に持っておばあちゃんが帰っていくのにゆっくりついていった。今思えば袋を持ってくれなかったのをなんとも思わなかったのは不思議だった。
そうして家に帰り、冷凍庫に入っていた氷枕にタオルを巻いて枕の上に置いて寝た。
そうして目が覚めると、深刻そうな顔をした母親が居た。
「あんたねえ……一人で病院にかかるなんてどうやったの?」
どこか咎めるような口調にビクッとはしたものの『おばあちゃんがついてきてくれたよ』と言うと「そんなわけ無いでしょ」と言われる。
そこで思いだした。おばあちゃんが去年風邪をこじらせて亡くなっていたのだ。幼いながらに葬儀にも出席したのを何故忘れていたのか、そして迎えに来てくれたのを何故不思議に思わなかったのか、何も分からなかったが、『おばあちゃんが一緒だった』としか言えなかった。
母親は子供が熱に浮かされてみた幻だろうとは思っていたようだが、それでは病院のお金はどうしたのか? 去年忌引きをしたのに先生がどうしておばあちゃんが来たのを不思議に思わなかったのか、何もかもが分からなかった。
ただ、確かに診察の結果と処方箋がないと出せない薬があるのがどうにかして診察をしてもらったことを示していた。
説明はどうにもつかないのだが、現実に薬をもらって返ってきているのを否定のしようがないので説明がつかないまま寝かされた。
数日間出席できなかったが、結局そんなことより何故病院に行けたのかの方がよほど不思議な事として記憶に残っているのだという。
なお、不要な混乱を避けるため、学校側には亡くなった母方の祖母では亡く、遠方からたまたま来ていた父方の祖母が来ていたと誤魔化したのだと後になって聞いたそうだ。
「結局、なーんにも分かんないんですよね。でもね、おばあちゃんは確かに居たんですよねえ……」
その話はリンゴ病が治って以降家族の間で触れないようになっているという。
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