走る光り
「こんなことやってましたけどねえ……やっぱり人死にが出ると考えも変わりますね。もしこの写真に写っているみんなが元気だったら私もどうしていたか……」
あれは、警察から逃げるときから始まるんですよ。本当に今にして思えば悪いことなんですけど、原付バイクに二人で乗って、好き放題走って満足してたの。あの頃はそれが本気で楽しいと思ったんだけどね。
知ってると思うけど原付に二人乗りなんて当然アウトなわけで、警察にすぐに目をつけられるの。まあ仲間のみんなどこかアウトな改造や乗り方をしてたから全員アウトなんだけどね。
でね、警察の白バイって大型でしょう? 狭い道に入って逃げようとしたんだけどね、今思えば警察だってチームなんだから捕まえようと思えば先の道に待機できたんでしょうね。でもその時は自分たちには白バイからも逃げ切れるんだなんて思ったの……今思えばそれが悪かったのね。
その日は待機していたパトカーに追われてね、いつもの様に逃げ込んでやり過ごしたんだけど、一人焦ってる子がいて、その子が広い道に出るときに思いきりスロットルを開けたの。慣れてなかったのね、その勢いで手を離しもしなかったから壁にね……それで警察沙汰になって私たちは全員解散となったのよ。
それだけだったら悲しいだけの話なんだけどね、それからも私は時々走ってたの。死んじゃったあの子の追悼のつもりだったけど、今思うと勝手な押しつけね。
相変わらず原付で道を走っていたのだけど前の方に赤色灯が見えたの。確かに警察に反感は持っていたけどあんなことがあった後で反発する気にもなれなくって、ブレーキを握ったの。それで減速したんだけどね、近寄ると火が消えるように赤色灯……いえ、アレは真っ赤に光る炎みたいだったわね、とにかくそんな風に見えたものがぱっと消えたの。光りだけがあって、それは車にもバイクにも付いていなかったのよ。
それでブレーキをかけたら少し先で工事をしていて道路に穴が掘られてたのよ。何が原因かは分からないけど警告灯は消えていたわね、それで熱が冷めたように家に帰って原付から鍵を抜いて足で踏んで曲げちゃったのよ。それっきり、もう乗ってないのよねえ……車ならって思うこともあるし、今じゃ免許証だけは持ってるけど運転しようと思うと居なくなっちゃった子たちの顔が浮かんでね、思い出すと運転する気がなくなっちゃうのよね。
タクシーなら平気なんだけどね……多分私はもう二度と運転はしないんでしょうね。あの子が生かしてくれたのだから、もうちょっとだけ生きていようかって思うのよ。
彼女はそう言って話を終えた。未だに彼女は運転をしていないが、遺族が許していないので、なくなった仲間の墓には夜にこっそりとタクシーで毎年通っているそうだ。今は事故と無縁な徒歩圏内でパートをしていると言う。
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