ウソは見れば分かる

 水木さんの友人にはとても空気を読める友人がいたらしい。その人曰く、魂を見れば嘘をついているかどうかは分かる、と言い張って憚らなかったそうだ。


 みんなそれを本気で信じていたわけではないが、彼女の嘘を見破る実力だけは認めていたそうだ。


 水木さんは彼女にはいつも嘘をついていなかったので表面上は上手くやっていたが、彼女に話しかけるときに大嘘をついているものも居た。たいていの場合、彼女はそれを知った上で流していたそうだが、どうにも我慢できないときは会話を打ち切っていることもあったそうだ。


 水木さんはその彼女……Mさんとしておこう……Mさんには嘘をつかなかったのだが、時としてだんまりを決め込むこともしたらしい。その時は向こうも察してくれるのか、話を変えてくれる。嘘をつきたくないなら無言を通せば良いのだ。


 そうして何とか成立していた友人関係だが、ある時Mさんに恋人が出来た。それから水木さんも空気を読んで必要以上に絡みに行くのは辞めていた。しかし程なくしてMさんは彼氏と破綻した。


 愚痴を聞かされたのだが、その時の内容は『アイツ嘘をつきすぎ』の一言を延々と聞かされたそうだ。ウソを見抜くことが出来ると、ついつい悪意のない嘘でも気に障るのだそうだ。


 彼女もいい加減、Mさんの機嫌を取るのが嫌になっていたのだが、嘘を平気でつくとどうなるか分かったものではないので、同意して受け流していた。


 それから次第にMさんとは距離を取ったらしいが、水木さんの方には新しい友人が出来たがMさんには他に新しい友人が出来なかったらしい。


 中学時代は程々にMさんとの交流もあったそうだが、高校に上がってからはすっかり関係が途切れたらしい。ただ、Mさんは高校に上がってから友人ができたのだと風の噂で聞いた。


 一度だけその理由を聞いたことがあるらしいが、一番の理由は高校に上がるときにスマホを買ってもらったことらしい。


 彼女がウソを見抜くためには実際に会わないとならないらしく、スマホの画面越しなら音声通話だろうがビデオ通話だろうが相手のウソなんて分からないのだそうだ。おかげで気にすることがなくなったらしい。


 それから水木さんもMさんも大学に進学して地元を離れ、お互いそれきりになったらしい。


 今にして思うとウソが見抜けるなんて不自由なことだと思うそうだ。大学に入ってから人は当たり前のように嘘をついていると知ったため、今頃Mはさぞや不自由しているだろうと思ったそうだ。それを裏付けるかのように、彼女は中学の同窓会に来なかった。


 一応生きてはいるらしいが、なんとなく感覚で彼女はもう二度とMと会うことはないだろうと思っているらしい。


 世の中ウソで溢れているので、彼女も苦労の多い人生を送っているだろうが、彼女にも出来るなら幸せになって欲しいと言っていた。

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